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記憶喪失

「本来、心因性で発症することがあるのですが、まれに雨宮さんのように頭部外傷で記憶をなくすこともあるんです・・まあ、非常に稀な事なのですが・・」 あれから、直ぐにCTスキャンや色々検査をしたが原因は見つけられなかった。 事故の外傷にしても順調に治っているようだ。 「そう・・ですか」 ベッドに寝たまま、俺は肩を落とす。 医者の話によると、俺は交通事故にあい、この病院に運ばれたらしい 頭を強く打ったぐらいで、他に目立った外傷は無かったらしいのだが・・ 1ヶ月という長い眠りから覚めてみれば、自分の事が全く思い出せなくなっていた。 「あの・・それって、戻るんですか!?」 そう言ってベッドに手を付き先生に詰め寄ったこの男は藤堂(たける)と俺に名乗った。 俺とどういう関係なのかよく分からないのだが、目覚めてからずっと側にいて、ずっと泣きそうな顔をしている。 (誰なんだろう?) 俺と、どんな関係なのかまだ教えてもらっていない。 こんな事が自分に起こりうるとは思わなかった。 「はぁ」 深く溜め息をついた。 自分の名前すら思い出せないなんて それどころか、友達や・・家族の顔すら思い出せない。 なんだか、頭に靄がかかっているようだ。 だが、自分の事は分からないがそれ以外の事は覚えている。 例えば字の読み方や社会的な事は覚えている 「ここが、どこか分かりますか?」 「病院です」 先生の質問に間髪いれずに答えた 「では、自分の事について何か分かる事はありますか?」 「・・・分かりません」 目を伏せ、答えた 「准君・・」 藤堂が、今にも泣きそうな顔で俺を見た。 自分の名前が雨宮准ということは、分かったが、違和感しかない。 それが自分の名前だという実感は少しも感じなかった。 「直ぐに記憶が戻る事もありますが、ハッキリしたことは言えません・・ここからはカウンセリングの先生を紹介しますので」 いつ記憶が戻るのか分からない、もしかしたら戻らないってこともあり得るのだろうか? 「あの、退院できますか?」 藤堂が眉をしかめながら聞いた 「ええ、傷もふさがりましたし・・かまいませんけど・・あの・・」 そこで、言葉を止めると俺を見た。 「うん?」 何か言いたげな顔に、首をかしげると 「お・・俺が説明します・・俺が・・あの、い・・一任されているので!」 藤堂が慌てたようすで口を挟む。 「そうですか・・まあ、他にご家族もいないようですのでね・・」 先生は安堵したように言った 「・・・・・」 俺に・・家族はいないのか? また衝撃な事実が出てきた。 「准君、良かったね!」 俺を見降ろし、満面の笑みを浮かべている 「・・・うん」 (よかったのだろうか?) 家族がいないのはショックだが、そもそも家族の顔も覚えていない。 何も思い出せない俺には、彼しか頼れる人がいないんだ。 先生が病室を出ていった後、起き上がり壁に立てかけられていた鏡を見た 「・・・・」 そこに映る姿は、自分なのだが顔を見ても、どこか他人のような気がした。 「准君」 鏡を見ている俺に藤堂が不安そうに声をかけてきた 「あ・・ゴメン」 鏡から視線を反らすと 「准君、大丈夫だよ・・俺がいるから」 俺を安心させるためだろう。慰めるように背中を擦った 「うん・・・」 この先、どうなるか分からない。 不安に胸が押し潰されそうになるが でも 「帰ろう!」 そう言って笑う藤堂を見ていると、不安も和らぐ気がした。

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