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退院

それから数日後、退院が決まった。 退院手続きは、藤堂がやってくれた。 支払いがどうなっているのか気になったが、それを聞く機会はなかった。 そして、退院の日 「准君の服は、ボロボロになっちゃったからさ、とりあえずこれ着て」 そう言って、Tシャツとジャケット、そして黒い細身のパンツを用意してくれた。 サイズはピッタリだった。 着替えを済ませた後、最後に看護師たちに礼を言い病院を後にした。 これからどうなるのだろうか 失った記憶はちゃんと戻るのだろうか・・ 色んな不安を感じながら、藤堂に促されるままに車に乗り込んだ。 「准君・・暫くさ、俺一緒に暮らそうと思うんだ」 運転しながら横目で俺を見た。 「あ・・うん、そうしてもらえると助かる・・」 断る理由がないし、ここで一人にされても困る。 「・・・・本当に・・本当に覚えてないの?」 藤堂は眉を顰めている 「・・うん・・全然覚えてない・・」 あれから、数日、藤堂には何人かの名前や写真を見せてもらったが一切思い出せなかった。 「本当に思い出せないんだよ・・」 「准君」 どこで生まれて、どこで育ったのか 何故、家族がいないのか・・ (あ・・・そうだ) 「あの・・藤堂さん」 自分の家族の事を知りたかったんだ 「あ、俺の事は尊って呼んでよ」 「え?・・たける?前は、そう呼んでいたんですか?」 「うん、そうだよ!尊って呼んでくれてた」 それを何で今言うんだろう? 最初に教えてくれれば良かったのに 「じゃ・・尊」 名前を呼ぶと、藤堂の顔が一瞬にしてほころんだ。 「うん!な~に?」 目尻に皺が寄るくらい満面の笑みで俺を見る。 「あのさ・・俺の両親って・・・いないの?」 自分の事も気になるが、両親が何故いないのかも気になる。 「・・ああ・・そうだよね・・教えなきゃいけないよね」 藤堂の声が少し低くなった。 目の前の信号が赤に変わり、車が停止する。 「うん・・気になっていたんだ」 余程の事があったのか、それとも、捨てられたのか・・ 「話しさ・・長くなっちゃうから、家に戻ったらにしよう」 「え?ああ、そうだね・・」 今すぐにでも聞きたかったが、確かに運転しながらだと話に集中できないかもしれない。 俺を安心させるためだろうか、眉を顰めながらも笑みを浮かべていた。 (彼がいなかったら・・俺、途方にくれてた・・) 改めて彼が側にいてくれることに感謝した。 ・ それから、暫く車は走り続ける。 窓の外の風景を見て何か思い出すかと思ったが無理だった。 車が建物の地下駐車場に入っていく。 「え?・・ここ?」 その建物に驚き思わすわ声をあげた それは、高いビルでいわゆる高層マンションというやつだ。 「そう。ここだよ!あのね、准君は、弁護士さんなんだよ!」 「・・・・え!?」 (弁護士!?) 予想してなかった職業に驚いた。 「まだ、駆け出しだけどね・・ここは、准君の働く弁護士事務所を経営してる江角さんって人のマンションでね、特別に安く借りてるんだって!」 「はあ・・弁護士・・ですか」 記憶をなくす前の自分が、そんな仕事をしているとは思いもよらなかった。 ということは、自分はかなり頭が良かったと言うことだ。 「ほんと、凄いよね・・俺なんか、中小企業のサラリーマンだからね!」 「俺の歳って・・何歳なんですか?」 「准君は29、んで俺はもう直ぐ30 !三十路突入だよー」 アハハと、声をあげる藤堂はとても30歳には見えなかった 二十歳くらいだと言っても信じてしまいそうだ。 「とりあえず、部屋に行こう」 「は、はい」 車を降り一階のエントランスに繋がる階段を上った。 そこからはエレベーターに乗る。 「部屋は三階だよ」 最上階じゃなくて良かったと思ってしまった。 「さあ、ここだよ!」 エレベーターを降り長い通路の突き当りのドアの前で立ち止まると、ポケットから鍵を取り出し鍵穴に刺した 「見覚えない?」 鍵を開けながら聞かれたが辺りを見回してもやはり、覚えている事はなかった

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