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帰ってきた
「さ、入って!」
ドアを大きく開けて先に中に入るように促される。
「お・・お邪魔します」
恐る恐る中に入ると、広い玄関と、そこから真っ直ぐ伸びる廊下が視界に入った。
「ちょっと埃っぽいかも知れないけどね」
「・・・広いね」
玄関を見回しても、自分の家という感覚にはなれなかった。
廊下の突き当たりにはドアがある。
靴を脱ぎ周りを見ながら奥へ向かった。
ドアを開け中に入ると、そこはリビングだった。
テレビやソファーが置いてある。
部屋の中に入っても、なんだか他人の家に来たような感覚だった。
「・・・なんか、あまりモノがないんだね」
家具はあるが、モノトーンで統一されているようだ。
リビングはカウンターキッチンと繋がっている。
キッチンに入ってみると、コンロは少し汚れているようだった。
(自炊をしていたのかな?)
「こっちにベッドね」
そう言って、藤堂はリビングから続くドアを開けた。
「凄いですね・・」
ドアの向こうにはベッドが見えた。
どうやら俺は、裕福な暮らしをしていたらしい。
弁護士がどれくらい儲かる仕事なのか分からないが、こんな高級マンションに住めるのなら、給料も良いのだろう。
「准君・・こっち!」
部屋を見ていたら、腕を掴まれリビングのソファに座らされた。
「ふう・・」
大きく息を吐いた。
「喉乾いたんじゃない?、」
そう言ってキッチンに行くと冷蔵庫からペットボトルを持ってきた。
「ありがとう」
それを受け取り、両手で握った。
「さてと・・どこから話そうかな・・」
俺と向かい合うように床に座った。
「うん・・・」
俺も何から聞けばいいのか分からない。
「色々気になるだろうけど事故の話しからしようか・・」
そう言って、口許に微笑を浮かべた。
「ああ・・そうだね・・」
家族のこともだが、何故事故にあったのかも知りたい。
「准君はね、助手席に乗ってたんだよね・・」
「え?」
と言うことは車の事故なのか?
藤堂を見ると、その顔から笑みは消え、悲しそうに眉をしかめていた。
「あのね・・・・・」
そこで、言葉が止まり唇を噛む。
「誰が・・運転してたんですか?」
俺が助手席にいたと言うことは運転していた人がいると言うことだ。
藤堂は、さらに眉をしかめ唇を噛んでいたが、暫くして深呼吸とともに肩を落とすと
「俺の・・姉が運転してたんだ」
小さな声で言った
「え?」
お姉さん?
彼の姉が運転していた?その人はどうなったのだろう?まだ、入院しているのか?
それとも、軽傷で済んだのだろうか
一瞬で色んな考えが頭をよぎる。
「仕事終わった准君を迎えに行ったんだ・・あ、でも本当は俺が行くはずだったんだけどさ・・酒飲んじゃってさ・・」
「そ・・そのお姉さんは・・」
藤堂の表情を見て、何となく感じるものがあったが、でもまだ、分からない。
藤堂を凝視して、先の言葉を待つ。
「あのね・・対向車の車が車線を越えて反対車線に来て・・そのままぶつかってしまったんだ」
「・・・・・」
予想より大事故だった。
それだと正面衝突だったんじゃないか?
「だから、事故は准君の所為じゃないし・・ってか悪いのは、相手の車だから」
「その・・お姉さんは無事なんですか!?」
ドクドクと鼓動が速く鳴っている
いや、俺は記憶を失ったが軽傷で済んでいるんだ、きっと彼の姉も・・
「姉は・・即死だったんだ」
「っ!」
ドクンと心臓が大きく脈打った
「でもね、准君が助かって・・本当に良かった」
そう言って目尻を指で拭った。
「そ・・そんな・・お姉さんが・・なんで・・」
その時、キンっと耳の奥で耳鳴りがした
「うっ・・」
―――准・・・お帰り―――
「っく・・」
頭に痛みが走る。
「准君!?」
藤堂が、声を上げて俺に駆け寄った
―――・・ごめんね―――私ね・・
彼女の声が聞こえる
「はあ・・はあ・・」
呼吸が荒くなり鼓動がさらに速くなる。
「准・・」
俺の隣に座り、そっと背中に手を置いた。
「尊・・俺と、その人の関係って・・」
「違うよ」
遮るように言われ、顔を上げた。
「え?」
藤堂を見ると、真剣な眼差して俺を見てそっと手を握って言った。
「姉貴は准君の恋人じゃないよ」
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