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俺の過去

「恋人・・じゃないんですか?」 恋人じゃないのなら彼女は何なんだ? 「・・・准君・・・」 俺の手を握ったまま藤堂は唇を噛んでいた 「どうして・・そんな泣きそうな顔してるの?」 大きな瞳は涙で濡れている。 握られていない手を彼の頬に伸ばした 俺を哀れんでの涙だろうか 「・・・准君・・・俺・・」 掠れそうな声で言うと目を瞑った。 目に留まった涙が頬を伝う。 「うん?」 先の言葉を促すように藤堂の顔を覗き混むが 「・・・・・・・」 そのまま黙りこむとハアっと溜息をついた。 「准君の・・家族の事も教えないと・・だよね?」 「え?」 何かを言いたかったんじゃないのか?と思ったが家族の事も聞かなければいけない。 「ご両親はね・・准君が小学生の時に亡くなったんだ」 「・・・・そうなんですか・・・」 いないとは、そういう事なんだと思ったが、そんな前に亡くなっているとは思わなかった。 「あのね・・車の・・事故だったんだ」 言いずらそうに視線を泳がしながら言った。 「・・・二人同時に?」 「うん・・・」 交通事故で両親を亡くしたのか・・ 自分には両親がいない それは、ショックな事ではあるが、記憶がない今、悲しみは無かった。 どこか他人事のように感じる。 「でも、叔母さんがいるよ!」 思い出したように手を合わせながら言った。 「ああ、そうなんだ・・」 「中学まで、叔母さんの家で生活しててね・・高校は全寮制の学校に入ったんだって」 「へえ・・」 「しかも、特待生だよ?!准君は本当に頭が良かったんだよ!」 そう言って、嬉しそうに何度も頷いている。 俺のことは、大体分かった。 両親を事故で亡くし、そのあとは叔母に引き取られたと・・一応親戚はいるということだ。あとは 「あの・・あなたの事も聞きたい」 「え?」 「藤堂さん・・・・尊とは・・どこで知り合ったんですか?」 ここまで、俺に親切にしてくれるくらいの理由があるのか、彼との付き合いは長いのか・・ 「そ・・うだよね・・俺の事も話さないとね・・」 そう言って、大きく息を吐いた。 「准君とはね、准君が大学生の時に知り合ったんだ」 俺を真っ直ぐ見つめながら言った。 「大学の時ですか」 黒い瞳の中に俺の姿が見えた。 「俺がバイトしていたカクテルバーにね・・准君が来てくれたのがきっかけだったんだ」 「へえ・・カクテルバー?」 「うん・・バーテンダーのバイトしてたんだ」 「へえ・・カッコいいな」 藤堂は背も高いし、体も細い。 きっとシェイカーを振る姿は多くの人の目に止まっただろう。 「良く一緒に遊ぶようになってさ・・それで姉貴とも知り合ったんだよ」 「・・・お姉さん・・・・」 彼から、あの人に繋がったのか。 でも、俺を迎えに来たせいで彼女は亡くなってしまった。 「さっきも言ったけど・・准君は悪くないよ」 そう言って俺の手を握った。 そうは言っても、俺だけが助かってしまったのだ。悪くないにしても責任を感じてしまう。 「・・ありがとう・・」 でも、彼にそう言ってもらうと、少しは心が軽くなる気がした。 「今日は、ここまで!一気に話しても准君混乱しちゃうしさ!案外明日には記憶戻るかもしれないだろ?」 「だと良いけどね・・」 顔を見合わせて笑った 何故か彼と話すのは凄く安心するし、心が軽くなる。 でも・・きっと辛いはずだ。 姉を亡くし、しかも同乗していた俺は軽傷なのだから・・ 「夕飯、どうしようね!何か食べに行こうか!」 それなのに・・笑っている藤堂に涙が出そうになった。

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