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覚えていること
「外食は准君も落ち着かないだろうし・・夕飯作るから買い物行こうか!」
冷蔵庫には食材が何もなかったようだ。
「あ・・・うん・・」
藤堂の言葉に頷くと
「・・フフ・・良いね」
俺を見て嬉しそうに言った。
「?」
何が良いのか分からず首をかしげた。
「スーパーが近くにあるから、歩いて行こうよ」
「分かった。尊に任せるよ」
ここに来る道すがらの風景も覚えていなかったし、こんな状態じゃ一人で出かけるのは無理だ。
「歩いているうちに、何か思い出すかもしれないよ」
「そう願うよ」
・
「どう?見覚えある感じ?」
「うう・・ん・・」
スーパーまでの道を二人で歩く。
閑静な住宅街で車通りも少なかった。
アパートやマンション、カフェもあるが何も思い出せなかった。
「でもさ・・考えようによっちゃ、もう一度新しい人生を歩めるって事だよね」
「・・そうかな~・・」
そもそも、今までの人生が消えてしまったし、何か新しいことをやりたいという気持ちがわくわけもない。
でも、彼らしい考えだなと思った。
「なんて・・当人にしたら、それどころじゃないよね・・ゴメン」
眉をしかめ、小さく頭を下げた。
「いや・・尊は面白い事言うなって思ってさ」
笑いながら言うと
相「へへ・・」
藤堂も肩を竦めながら笑った。
それから暫く歩くと
「あ!ここ!」
足を止めスーパーの看板を指さした。
・
買い物を終えてマンションに帰った。
何を買うかは、全て藤堂に任せた。
「さ!今日は麻婆豆腐だよ!俺の得意料理!」
「へえ・・凄いね」
記憶を失う前の俺が料理をできたのか分からないが、中華料理が作れるのは凄いと思った。
「ちゃんと、エプロンも用意してたんだ」
黒いエプロンを首から下げ、長い紐をウエストに巻き付けて結んだ。
エプロン姿もキッチンに立っている姿も違和感が無かった。
(なんだろう・・ここに彼がいるのが普通に感じる)
大学の頃からの・・友達なんだよな?
付き合いが長いから感覚で覚えているのだろうか
「准君は、辛いのが好きだったんだよ」
ニヤっと口の端を上げて言った。
「そうなんだ・・」
「うん!尊のスペシャル麻婆豆腐作るからね!」
「お、おお・・」
高めのテンションに、押されながら頷いた。
何か手伝おうとしたのだが、料理は任せて!と言われた。
「准君は、部屋のなか色々見ててよ」
「ああ、確かにそうだな」
自分の家なのだから、見て回っても良いんだよな
俺は部屋にある小物やタンスの引き出しの中を見て回った。
クローゼットの洋服
本棚にある本
「はぁ・・」
どれを見ても、手に取って見てもやはり何も思い出せなかった。
だが、弁護士と言うのは本当らしい。
本棚には法律の本が置いてあり、恐らく読んでも意味は分からないだろうと思ったが、本を手に取り開いてみた。
「あ・・知ってる・・」
法律の事や用語はどれも覚えている感じがした。
記憶が無くて学んだことは忘れていないのかもしれない。
本を本棚に戻した時、キッチンから藤堂の呼ぶ声がした
「准君、できたよー!」
・
「美味そう」
リビングのテーブルに並べられた料理は、どれも美味しそうだ
「美味しそうじゃなくて美味しいよ!食べよ!」
「うん、急にお腹すいてきた」
テーブルに向かい合うように座る。
「いただきます」
「いただきまーーす」
早速、麻婆豆腐を食べると
「か・・らっ!!」
口に入れた瞬間に舌に辛さが広がる。
想像以上の辛さに声をあげた
「へへ・・辛いでしょ~!」
「ちょ・・・ゴホ・・ゲホ・・マジで、俺辛いの好きだったの?」
辛くて涙が出るんですけど
「ふふ・・実は、苦手だった」
「なっ!何だよそれ!」
何でそんな嘘つくんだ?!
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