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訪問者

藤堂が仕事に行き部屋に一人になる。とりあえずリビングのソファーに座りテレビをつけた。 朝のワイドショーの番組が映り、キャスターがニュースを読み上げていた。 自分の事以外は覚えているから、時事ネタは理解できる。 今の総理大臣も分かっている。 「なんで、自分のことは思い出せないんだよ・・」 テレビを消してソファに仰向けに寝た。 さて、今から何をしようか 尊が戻るまで、かなり時間があるだろうし・・ 今日も外を歩いてみようかと思ったが、直ぐに思いとどまった。 まだ一人で歩くのは危険かもしれない。もし自分のことを知っている人に会ったとき、うまく説明できるか不安だ。 「部屋で大人しくしているか」 そう思い本棚にある本を読むことにした。 本棚にあるのは、主に法律関係のものばかりだ。 推理小説も何冊かあり、それを読むことにした。 「もしかして、小説の内容は覚えているかも!」 本には栞が挟んである。きっと以前の俺はこれを読んだだろう。 読めば、記憶を取り戻すきっかけになるかもしれない。 本を手に取りソファに移動して読むことにした。 ・ 俺の読みは当たったのだが (読んだことがあるってことだよな・・) 確かに読み進めていると、話の先が何となく分かってしまう。 結局最後まで読む前に犯人が分かってしまい、読むのを止めた。 それに記憶が戻るきっかけにはならなかった。 「はあ・・」 溜息をつきながら本を閉じた時 ピンポーーン 「っ!」 インターフォンの音が部屋に鳴り響いた。 その音に緊張が走る。 (誰か来た!?) 鼓動が一気に速くなった。 「・・・どうしよう」 ここは、居留守を使うのが正しい選択だろう。自分を知っている人だとしても、一人で会うのは危ない気がした。 緊張しながら、立ち上がり腕を組んだとき、またインターフォンが鳴った。 そして、ドンドンとドアを叩く音と 『お~い・・いるんでしょ?』藤堂ではない男の声が聞こえてきた。 「ど・・どうしよう」 足音が鳴らないように玄関に行くと、またドアをコンコンとノックする音が聞こえた 『病院に行ったら退院したって聞いてびっくりしたんだ・・准、開けてよ!』 若い声のようだ。もしかして、俺の友達だろうか。 病院に行ったと言うことは、俺が事故に合ったのを知っているのかもしれない。 「あ・・今、開けます」 意を決してドアの鍵を解除した。 すると、すぐさまドアが開き 「ああ・・良かった・・心配したんだぞ!」 ドアの前に立つ男は俺を見て、柔らかな笑みを浮かべた。 背はあまり高くはないが、グレーのストライプが入ったスーツを着ていた。 少し眺めの黒い髪は横に流して整えられている。そして形の良い鼻が印象的だと思った。 「あ・・あの・・あなたは」 恐る恐る聞くと 「え?」 俺の言葉に、目を見開き驚いた顔をした。 もしかして記憶を失った事は知らないのだろうか 「病院で何も、聞いていないですか?」 そう聞くと、男はさらに目を見開き、口が半開きになった。 「あ・・あれ、冗談じゃなかったの?!」 「・・冗談・・」 確かに、目覚めたら記憶喪失なんて、早々あることではないだろうが、病院の関係者が、そんな冗談を言うと思うのだろうか? 「いや、看護婦がさ、記憶喪失なんですよ~なんて言ってたけどドラマじゃあるまいし・・そんな事あるか?って思ったんだよ」 アハハっと笑いながら靴を脱いで玄関に上がってきた。 「・・あ・・」 俺の横をすり抜けリビングの方へ行く彼を慌てて追いかけた。 「そうか・・凄いな・・本当に忘れちゃったんだ」 リビングに入ると男は立ち止まり、小さな声で言った

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