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過去を知る人

「あの・・あなたは・・」 恐る恐る聞くと 「あ・・そうだな・・俺の事も知らないんじゃ、不審者だよな!」 振り返った男は、ハハっと笑い声をあげた。 「・・ですね」 俺もつられて笑ってしまった。 俺より背は低く、肌は少し日に焼けている。 目が細く、だが鼻筋が通っていて、女性にモテそうな顔立ちをしている。 「俺の名前は江角秀俊・・君の働く法律事務所の経営者だよ」 細い目が、さらに細くなり柔らかな笑みを浮かべた。 「そうなんですか!そ、それは失礼しました」 慌てて頭を下げた。 「いや、失礼なんて何もないだろ」 アハハと声を上げて笑った。 (だって、ここは彼のマンションだよな) そして、自分の上司でもある。 「でも・・なんか普通だな」 俺を見て小さく呟くとため息をついた。 「え?」 「いや、記憶を失っても普通なんだな~って思ってさ」 「そうですね・・自分の事以外は覚えているので・・」 彼を覚えていないのが申し訳なかった。 「って事は、法律の事も覚えてる?」 「ああ・・まあ、多分」 法律の本を読んだとき、内容は大体頭に入っている感じがした。仕事ができるかは分からないが・・ 「そっか・・でも、もう暫く休みなよ!事故の前は休みなく働いていたんだしね。有給も余ってるぞ」 そう言って優しい笑みを浮かべた。 その笑みを見ているだけで、不安が少し解消される気がする。 「ありがとうございます・・身の回りの事は尊が手伝ってくれているんですよ」 「ん・・尊?」 俺の言葉に首を傾げた。 「えっと、藤堂尊です・・あの、事故で・・その・・お姉さんを」 尊を知らないのか? 「ああ!藤堂君か」 ポンっと手を叩きながら顔を上げた。 「そっか・・彼と一緒にいるのか・・」 少し驚いた顔をしたが、直ぐに眉を下げて、悲しそうな表情になった。 「そうか・・うん・・それが良いよ」 何度も頷きながら言った。 「・・・・・」 その言葉と表情に違和感を感じる。 何だろう 何かあるのかな 「あの、江角さん・・で良いですか?」 前の自分が、彼をどう呼んでいたか分からない。 弁護士だと、先生と呼ぶべきだろうか?とりあえず名字で言ってみたが 「ああ、良いよ」 江角はニコッと頬を緩めて頷いた。 「江角さん・・俺の事を聞かせてもらえませんか?」 「うん?」 「仕事している俺のことを尊は知らないだろうし・・いろんな人から聞かないとって思うんです」 自分を知れば、早く記憶が戻るかもしれない。 「そうだね・・まあ、プライベートは俺より彼の方が知っているかもしれないけどね」 ふふっと小さく笑うと、近くに会った、ソファに座った。 「ただ、少し長くなるかもよ?」 「お茶、淹れます」 直ぐにキッチンに行き、ヤカンに水をいれてコンロに置いた 「准君・・」 江角もキッチンに来ると横に立ち 「なんで、彼を尊って呼んでるの?」 「え?」 どういう意味だろう。 以前の俺は彼を尊と呼んでいなかったのか?いや、でも藤堂は、名前で呼んでいたと言っていたわけだし・・ 「・・・いや、何でもない」 固まってしまった俺の肩を軽く叩くと、リビングに戻って行った。 「・・?」 あんな質問をすると言うことは、尊と呼んでいなかったという事だろうか。 (尊が嘘をついたのか?なぜ?) 不思議に思ったが、とりあえずお茶を淹れてリビングに戻った 「さ~てと・・何から話せばいいかな?」 江角の前にマグカップを置き、彼と向かい合うようにテーブルを挟んでラグマットに座った。 「そうですね、まずは、俺はどんな人でした?」 そう聞くと、江角は目を細目て笑みを浮かべた。

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