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彼の話(江角)
君とは、友人の紹介で知り合った。
『優秀な奴なんだよ・・在学中に司法試験に受かってね、結構良い事務所に就職したんだけど・・ちょっと色々あって辞めちゃったんだよ』
色々の理由は、教えてくれなかった。
その当時、私は自分のペースで仕事をさせてくれない事務所に嫌気がさし、だったら自分で事務所開けば良いのではと、軽い気持ちで開業した時だった。
始めこそ、客が来なくて大変だったが、依頼者に寄り添い粘り強く裁判で勝ち取ることで、口コミやネットでの評判で客も徐々に増え始めた。
そこで、人員を増やそうと思い、良い人材がいないか探していたところだった。
「言っとくけど、会って、変な奴だったら雇わないからな」
私の言葉に友人は勝ち誇ったような顔をして
『大丈夫!絶対気に入るよ』
そう言って意味ありげな笑みを浮かべた。
・
初めて君に会ったとき私は目を奪われた。
花にたとえるなら・・白百合の様だろうか・・
いや・・もっと儚いイメージだ・・
月の光のように静かに降り注ぐ淡い光のような白い肌
ほのかに赤い唇
大きな瞳
「・・初めまして・・雨宮准です」
今思えば、緊張していたからだろうか、その声は少し震えていた。
それが、どこか初々しく思えた。
「すみません、緊張しちゃって・・」
そう言って、微笑んだ彼に俺は雇う事を決めた。
兎に角、君は綺麗な顔立ちだった。
中性的な感じもするが、生真面目で、ある意味融通がきかない頑固者な面もあった。
自分の信念を曲げない強さが時々垣間見える。
だが、依頼人には最後まで親身になって仕事をしていた。
「なあ、もっと楽に考えてもいいんだよ?・・疲れない?」
「疲れませんよ・・これが私の仕事ですから」
そう言って、俯きながら静かに笑う。
依頼人の中には准に恋をしてしまう人も少なくは無かった。
彼に会うのが目的で相談に来ている客もいたけど、当然そんな誘いに乗る人ではない。仕事以外で依頼者と会うことは絶対になかった。
もしかして、もう相手がいるのではと思い恋人はいないのか?と訪ねると
「そういう事に興味はないので・・」
そう言って、眉を顰めたのを覚えている。
顔も性格も良いのに相手がいないのは勿体ないと思い
「良い子知ってるぞ?紹介しようか?」
と言ったことがある。
「江角さんでも、そんな事言うんですね。意外です」
そう言って困ったように笑っていた。
記憶を無くす前の君は・・
何と言うか、自分の周りに常に壁を作っている感じがした。
周りと必要以上の関係を持たない様につかず離れず・・
仕事帰りに誰かと飲むということもなかった。
「前の事務所で何があったの?」
そこまで、人との関わりを拒むには理由があるのだと思った。
そして、その理由は恐らく前の事務所なのではと。
彼が話さないのなら聞くのは止めようと思っていたが、思いきって聞いてみた。
「・・・・っ」
俺の言葉に唇を噛みしめ、辛そうな顔をした。
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