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「初めまして、藤堂と言います」 そう言って、礼儀正しく深く頭を下げると、手を差し出した。 「江角です」 差し出された手を握ると 「すみません・・急に誘っちゃって」 俺の手を握ったまま申し訳なさそうに、また頭を下げた 「いえ・・嬉しいですよ。雨宮さんの友人を紹介してもらえるなんて」 「そうですか?ありがとうございます」 目尻にシワを寄せ屈託なく笑った。 その笑顔は、まるで太陽の様だと思った。 藤堂さんの笑顔に周りの空気が明るくなる。 「とりあえず座りましょう」 准が、言うと 「あ!・・ねえ、何飲みますか?俺マスターに注文してきますから」 俺と准を交互に見ながら言った。 「ああ・・よく分からないから、お任せで」 普段は焼酎か日本酒しか飲まないし、カクテルなんてどんな種類があるか分からない。 「藤堂さん、江角さんは甘くないカクテルにして」 「分かった!」 藤堂さんに話しかける准は、本当に嬉しそうな、幸せそうな顔をしていたのだが 「ちょっと待っててね」 そう言ってカウンターに向かう藤堂さんの背中を見る准は、その瞳に憂いを浮かべている様に思えた。 「お待たせしました!」 暫くして、三つのグラスを持って戻ってきた。彼からグラスを受けとると 「ありがと・・あ、これ俺が好きなやつだね」 笑みを浮かべる准に、彼もまた笑みを浮かべる。 「そうだよ~准君、ジントニック好きだよね~」 「俺も、甘いのは得意じゃないからね」 二人のやり取りを見ていて、嬉しくなった。 いつも人との間に一線を引いている彼の感情豊かな一面が見れたからだ。 「じゃ、准君の就職に乾杯しよっか!」 立ち上がると同時にグラスを掲げた。 「すみません、江角さん・・藤堂さんはテンションが高い人なんです・・」 「ふふ・・楽しい人好きだよ」 「俺も、江角さんみたいな人好きです!」 俺みたい・・ 彼には俺がどういう風に見えたのだろうか。 少なくとも准の敵になる人ではないと思ってくれたのだろう。 藤堂さんと話すのは楽しかった。 何より、俺の知らない准を知っている。 「学生の頃にね・・俺がバイトしてる時に准君がお客さんで来たんですよ」 酒も進み、話題は出会った頃の話になった。 「なんか、勉強に疲れちゃって・・酒でも飲んでやるって思ったんですよ」 「へえ・・君でも、そんな事があったんだね」 何でもそつなくこなすから、勉強で苦労することはないと思っていた。 「思い出すなー。カウンターにね、肘をついてつまらなそうに酒飲んでたな~」 「藤堂さんは、しつこく話しかけてきたね」 苦笑しながら言うと、藤堂さんはムッと唇を尖らせた。 「だって・・准君の笑った顔が見てみたかったんだもん」 「ええ?」 「准君の笑顔は綺麗だからさ」 「ちょっと!何言ってるんだよ!酔ってる?」 准の顔が一瞬にして赤くなり、そんな彼に藤堂さんは、満足そうに目を細目ていた。 その時、思った。藤堂さんが彼を見る目は友人にたいしての視線ではないと。 そのあと、二時間ほどその店で飲み、明日も仕事だということでお開きになった。 「江角さん・・准君の事、よろしくお願いします」 「うん、大丈夫だよ・・彼は、とっても良く働いてくれるしね!辞めさせないよ~」 「ふふ・・何言ってるんですか」 酒が入っているからなのだろうか・・ それとも藤堂さんと一緒だからなのだろうか 初めて見る准の柔らかな笑みに胸が高鳴るのを感じた。 だが、自分の立場は分かっているし、彼らの気持ちも分かる。 俺は大丈夫だ。 俺は君の味方でいたいから・・

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