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心配

「准くん!ただいまーー!!」 大きな声と共にドタドタと廊下を歩く音 「准君!」 勢いよく開いたドアから尊が飛び込んできた。 「尊・・ちょっと落ち着いて・・」 リビングに入ってきた尊は、額に汗を浮かべている 「凄い汗だよ!?」 「ハア・・走って来たからさ~・・あっち~」 ネクタイを緩めながら言うと、キッチンに行き冷蔵庫を開けた。 「昨日、ビール買ってて良かった~・・飲んで良い?」 「え?あ・・うん」 そういえば、スーパーで買っていたなと思っていると 「ねえ、今日江角さん来たんだって!?」 缶ビール片手にソファに座る。 「うん・・なんで知ってるの?」 俺も尊の隣に座った。 「メール着た」 プシュッと音をならしながらプルタブを開け、ゴクゴクと喉を鳴らしながらビールを飲んだ。 余程喉が乾いていたようだ。 「仲良いんだね」 たしか、今では時々飲みに行く仲と言っていたし 「へへ・・准君のおかげで知り合えた」 口の端についた泡を拭いながら笑みを浮かべた。 「色々、話聞いたよ」 「うん、そうみたいだね・・どう?なにか思い出せそうかな?」 「いや・・何も・・」 江角さんの話を聞いても、思い出せることは何もなかった。 それでも、前の俺を教えてもらって良かったとおもっている。 弁護士として、頑張っていたようだし、尊とは大学からの付き合いだということも分かった。 「明日は、病院に行くんだよね?」 「うん、カウンセリングの先生に会う予定なんだ」 もう、事故の怪我は完治しているし、記憶を取り戻すことは医学では無理のようだ。 当分は、心療内科でカウンセリングを受けて様子を見るのだろう。 「ねえ、俺も一緒に行こうか?・・やっぱり心配だし」 不安そうな顔をしている藤堂に大丈夫と言った。 「記憶はないけど・・自分の事以外は覚えているしさ」 「何か合ったら、直ぐ電話してよ!ね?」 「分かったって!」 過剰なほど心配する彼に苦笑してしまった。 「さてと、寝ようか!」 「うん、何もしてないのに疲れたよ」 その日も、一緒にベッドに入った。 「明日は准君も早く起きなきゃだね」 「朝苦手っぽいからなー起こしてね」 俺の隣に潜り込んだ尊は、そっと俺の手を握る。 「大丈夫、ちゃんと起こすよ」 そう言って、笑みを浮かべた。 「おやすみ」 「おやすみ・・准君」 昨日は驚いたけど・・隣に感じる彼の寝息に安堵している自分がいた。 ・ 翌日、朝は尊に何とか起こしてもらい病院に行った。 受付を済ませ、待合室で呼ばれるのを待った。 『雨宮さん・・どうぞ~』 程なくして、年配の看護婦に呼ばれる。 「はい」 立ち上がり、診察室へ向かった。 診察室へ続くドアの横にはプレートがあり『診療内科 担当:三枝(さえぐさ)佑真(ゆうま)』と書かれてあった (男の先生か・・) こういう所に来るのは初めてだ。 診察を受ければ、記憶が戻るのだろうか 「失礼します・・」 緊張しているのを感じながら中に入ると、普通の診察室とは違い、中央にテーブルが置いてあり、座り心地がよさそうな椅子があった。 「やあ・・こんにちは」 窓の前に、白衣を着た男の人が立っていた。男性は俺を見て笑顔になった。 「こ・・こんにちは・・」 彼の顔を見ながら頭を下げたから変な体勢になってしまった。 「初めましてだね!僕は三枝と、言います」 ニコッと歯を見せて笑うと、椅子に座るように促された。 よく見ると、先生は白衣の下にTシャツを着ていて、下はジーパンだ。 髪は長めで、七三分けにしていた。前髪を横に流していて、顔を見る限りは俺と同年代くらいに、見える。 (なんか・・ラフな格好だな) やはり普通の医者とは違うのかな・・と思いながら椅子に座った。 「さてと、雨宮、准さんですね」 「あ・・はい」 「緊張しちゃいますよね・・でも、気楽にやりましょ」 そう言って、また歯を見せて笑った。

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