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嘘のような話(充)

「准が昏睡から目が覚めた」 ある日、白鳥充(しらとりみつる)のもとに、江角から連絡が来た。 その時、充は仕事で海外にいた。 だが、その知らせを聞き、仕事を全て投げ出して日本に帰ろうとしたが、大事な案件も抱えていて、そう簡単に帰ることはできなかった。 それでも、急いで終わらせて戻ってきた。 彼もまた、准が目覚めるのを心から願っていた。 ・ 准と俺は高校からの付き合いだった。 俺は親の束縛が面倒で全寮制の高校に入り、そこで准と知り合った。 准は、あの容姿のせいで、クラスでも浮いていた。 しかも、彼は不器用な人間だ。 それは、もちろん良い意味でだ。 彼は真っ直ぐすぎるのだ。 だから、弁護士になると聞いたとき、彼にピッタリだと思った。 一番近い友人として、彼を応援しようと思った。 ・ 日本に戻り直ぐに江角さんに会いに行くと、信じられない事を言われた。 「記憶が無いんだ」 「・・・は?」 最初、何を言っているのか理解できなかった。 聞けば、自分の事全てを忘れてしまったと言うがそんなドラマのような話信じられるだろうか (全部忘れたって・・そんな、まさか) 「からかってんの?」 「・・んな事でからかうかよ・・准は・・全部・・全部忘れたんだよ」 江角さんの苦しそうな顔を初めて見た気がした。 ただ事ではないと理解はしたが、でも全て忘れたといっても、まだ信じきれなかった。 俺のことは覚えていると思っていた。 だが・・ 「あ・・どうぞ、あがってください」 頭を軽く下げながら言う彼に俺は心底落胆した。 「本当に・・覚えていないの?」 「すみません・・」 准は、申し訳なさそうに眉をしかめ頭を下げる。 「俺だよ?」 准に、何かあったとき、彼が最初に頼るのは俺だと言い切れるほど、俺たちは信頼関係があるんだ。 そんな俺のことも忘れてしまったのか? 「・・・・」 准はさらに眉を顰めて悲しそうな顔をした。 なんだよ・・何でだよ 高校時代、二人で色んな事したじゃん 三年の時は同室で、毎日遅くまで喋っていただろ? お互い、隠し事なんてない。 高校卒業して、お互い大人になってからも連絡を取り合っていた 「・・はあ・・准・・」 准の肩を掴み、うな垂れた。 何でこんなことに・・ 「・・あの・・本当にごめんなさい」 そんな・・他人行儀なこと言わないでくれよ 「あ!・・じゃあ・・藤堂さんの事も」 「え?・・尊の事知っているんですか?」 途端に表情が明るくなる。 「尊!?」 俺は驚いて准を凝視した。 「充、藤堂さんは、今一緒に住んでいるんだよ」 「は・・はい!?」 さらに驚き、硬直してしまった。 (どういう事?) 「あの、みつる・・さんで良いですか?」 「・・・ああ、そうだよね」 全て忘れてしまったなら、自己紹介しないといけないのか 「うん、充と呼んでくれ。准は、ずっとそう呼んでくれたから」 「・・充・・」 名前を聞いても、思い出せない歯がゆさからか、唇と噛み締めている。 俺は溜息を押し殺して言った。 「俺は白鳥充、准とは高校からの友人なんだ」

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