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俺と准は別々の大学へ進学した。 俺だって成績は悪くなかったけど同じ大学に行くのはどう転んでも無理だった。 それ以前に、弁護士になりたいとは思わない。 家族と距離がとれれば俺はよかったから、楽に入れて遊べそうな大学に入った。 大学生活にも慣れてきたある日准に飲みに誘われた。 合わせたい人がいるんだと嬉しそうに話す。 「凄く、面白くてね良い人なんだよ」 「へえ?」 准が誰かの事を紹介したいって言われたのは初めてだったから驚いた。 准は人当たりはいいが、あまり人付き合いは得意ではない。 案内された店は、予想外のカクテルバー。 そして、彼はそこのカクバーテンダーをしていた。 「こんにちわ!」 藤堂さんは明るくて、本当に気さくな人だった。 「准君のお友達なんだ~」 笑うと目尻にシワがよって、とても愛嬌のある顔になった。 「俺たち、同じ高校だったんだ」 「へー!」 「三年の時は同室だったしな」 准が懐かしむように目を細目た。 「へえ~良いな~」 「ふふ」 驚いたのは、准が藤堂さんに向ける笑顔だった。 俺以外にこんな楽しそうな笑顔を向ける准は初めて見た気がする。 それから、一時間ほど藤堂さんの作るカクテルを飲んで会話を楽しみ店を後にした。 店を出ると、准は直ぐに俺に 「なあ・・藤堂さん、良い人だろ?」 と笑顔で聞いてきた。 「うん、面白い人だね・・ここで知り合ったの?」 「うん、一人で飲みにきたら話しかけてくれてさ」 「へ~」 「・・何かさ、藤堂さんと話していると、嫌な事全部忘れられるんだ・・」 そう言って目を細目る視線の奥に、憂いを感じた。 「そっか・・」 准には両親がいない。 叔母夫婦に世話になっていたらしいが折り合いが悪くて、高校は全寮制にしたと言っていた。 大学もバイトをしながら勉強して苦労は絶えないだろう。 誰にも文句を言えず、苛立ちがたまっていたのかもしれない。 だから、藤堂さんの明るさに救われたのだろうと思った。 「こんな気持ちになるのは初めてなんだ」 「え?」 でも、准の思いは、もっと深いものだった。 「・・・藤堂さんを見ると凄く・・心が満たされるんだ」 「・・・そうか」 准が、いつ、どのタイミングで恋したかなんて分からない 一目惚れなのかもしれないし 店に通ううちに好きになっていたのかもしれない でも、准は真っ直ぐな人だから 恋愛は男女が普通で 偏見がある分けじゃないけど 自分は平気でも相手は、きっと俺なんか受け入れるわけがないと思っていたのだろう。 自分の気持ちが恋愛感情だと気づいたあとは、いつも辛そうにしていた。 辛くても、彼に会いたくて店に通う。 気持ちを伝えろと言うと、必ず「でも、俺なんかが・・」と自分を卑下する 「そんなの分かんないじゃん!」 藤堂さんだってきっと・・ 「分かるよ!あの人・・すっげーモテるし・・彼女いるかもしれないし」 「いないってこの前言ってたじゃん」 「良いんだ・・俺は会えれば良いんだ」 「そんなの・・辛いだけじゃん!」 准だって分かっている それでも会いたくて でも苦しくて そんな時だった。 店に行くと、藤堂さんのいるカウンターに女性が座っていた。 その姿を見て准の表情が凍りつく 俺たちに気づいた藤堂さんが、彼女を連れて近づき、俺たちを見て女性が頭を下げた 『初めまして・・』 藤堂さんによく似た女性だった 「俺の姉なんだ」 「・・お姉さんか・・」 その出会いは、残酷な物語の幕開けだった

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