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気付き(三枝)

彼との出会いは三枝にとって、衝撃だった。 診察に入ってきた彼を見た瞬間、三枝は息を飲んだ。 「やあ・・こんにちは」 声が震えそうになるのを腹に力を入れて堪える。 「こんにちは・・」 彼は声さえも・・艶やかだと思った。 どこから見ても男なのに、彼には不思議な感情を抱かせる。 今まで、色んな人を見てきた。 どんなに魅力的な患者が来たとしても、三枝は患者という認識以上の感情を抱くことはなかった。 だが、彼は違った。 「先生・・彼の事気に入りましたね?」 雨宮が帰った後、看護師の三藤はクスクスと笑いながら言った。 彼女は三枝が、この病院配属になったときから、一緒に働いている。 「気に入ったって言うか・・」 内心、ドキドキしながらも顔には出さないように頬に力を入れる。 「はあ・・にしてもお綺麗な方でしたね~」 そう言って三藤は胸に手を当てて溜息をついていた。 (気に入った・・そう言うんじゃないと思う・・) 三枝は溜め息をつきながら自分の感情を分析する。 そして、行き着いた答えは一目惚れに近い好意的な感情というものだった。 だからと言って、彼にこの気持ちを打ち明けることはない。 そこは、医者として、しっかりと対応しようと心に決めていた。 二回目の診察 失った記憶を取り戻す気配は感じられなかった 「何も・・何も思い出せないのに・・分からないのに、尊といると胸が苦しいんです」 眉を顰め、唇を噛みしめる雨宮は悲壮感により一層愁いを帯びていて、儚い美しさを感じた。 「雨宮さん・・その、尊さんとは一緒に暮らしていると言っていましたが・・」 「はい、私の身の回りの世話と言うか心配してくれて・・」 「そうですか・・」 藤堂尊 資料によると、一連の事故は藤堂紗希の運転する車に対向車線をはみ出してきた車がぶつかった。 車は横転し、 雨宮は頭を強く打ち、そして運転していた紗希は即死だった。 雨宮はその時の衝撃で記憶を失った。 紗希は尊の姉だ。 「なるほど・・」 二人が同じ車に乗っていたのなら、二人は交際していたのだろう。 「尊・・寝ている時、泣いてるんです」 目を伏せ、マグカップを両手で包み込むように持った。 「泣いてる?」 「俺の名前呼んで・・泣いてるんです」 「・・・・・」 それは、どういう感情だろうかと三枝は考えた。 「俺の所為で泣いてると思うと・・早く記憶を取り戻さないとって・・でも思い出せないし」 グッと唇を噛みしめる雨宮に三枝は手を伸ばし、テーブル越しに手を握った。 「雨宮さん・・無理に思い出す必要はないんですよ!」 「でも・・・」 「彼が、何を思っているのかは、あなたには関係ないです。それに、あなたは何も悪くない。防ぎ用のない事故だったんです」 「・・・・」 「大丈夫だから」 「・・・ありがとうございます。心が少し軽くなった気がします」 大きな瞳に涙を浮かべた彼が微かに笑んだ。 その笑みに三枝は胸の奥が苦しくなるのを感じた。 普通は、記憶を失っても、数日で戻る事が多い。 全てを思い出さないにしても断片や、友人の顔を何かのきっかけで思い出す。 だが、雨宮の記憶が戻る兆しはなく、彼の周りに友人、知人が現れてもいっこうに戻ることはなかった。 三枝は思った。 きっと在的に思い出したくないのかもしれないと

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