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ありのまま
三枝先生と話していると、焦りや不安が和らいでいくのを感じる。
これで良い
今の自分でも良い
たとえ記憶を失っても、俺は俺なんだと・・
「今度・・尊さんとお会いしたいな」
「あ・・偶然です!尊も先生に会いたいって言ってました!」
「え?そうなの?」
驚いたような顔で俺を凝視した。
「はい、尊は心配性なんですよね」
何もかも忘れた俺が余程心配なんだろうと思う。
「・・そういう事・・なのかな~」
腕組みをして、唸りだした。
「どうしたんですか?」
何故、そのような顔をするのか分からず首をかしげると
「まあ、良いでしょう・・あ・・もうこんな時間ですね」
時計を見て、立ち上がった。
潤「え!?あ・・ほんとだ!」
気付けば俺が来てから一時間以上たっている。
「いやあ、時間が経つのが早かったですね」
笑いながらカルテに何かを書き込んだ。
「先生、次の方、見えてますので」
三藤さんが、申し訳なさそうな表情で顔を出した。
「すみません!なんか時間を忘れてしまいますね」
慌てて立ち上がった俺に先生も一緒に立ち上がった。
「いえ・・私もね、雨宮さんと話すのが楽しくて・・すみません」
眉を下げながら言う三枝先生は、なんだか可愛い顔で、苦笑してしまった。
「フフ・・」
「え?なんで笑うんですか?」
思わず笑ってしまった俺に、目を丸くした。
「いえ、何でもないんです・・また、来ます」
頬に力を入れて表情を戻し、頭を下げた。
「ええ、何時でも来てくださいね」
「はい」
頭を下げて診察室を出て行こうとした時
「あ!ちょっと待って!」
先生が俺の肩を掴んだ
「はい?」
振り返ると、やっぱり眉を下げたままの先生が「いや~・・」っと言いずらそうに口籠った。
「どうかしましたか?」
「あの・・これ、私のメルアドです」
そう言って紙の切れ端を差し出した。
「え?」
「あ、いや・・深い意味はないんですよ!あの・・ほら時間が過ぎるのも早いし・・カウンセリングも中途半端になってしまうので・・あの・・その・・だからですね・・」
見る見るうちに先生の顔が赤くなっていく。
俺は、その紙切れを受け取った。
「あの・・嬉しいです!」
「え?」
「後で、メール送ります!」
その紙を無くさないように財布の中に入れた。
「ま・・ま・・待ってます!」
先生が真っ赤な顔で言う。
「・・はい」
もう一度頭を下げて診察室を出た。
初めての友達ができた気分だった
いや、先生に向かって友達って言うのも失礼だけど
「早速・・」
帰りのバスの中、早速先生にメールを送った
『今日はありがとうございました
先生に話を聞いてもらうと、凄く安心します
これからも、よろしくお願いします』
送信すると、数分後に返事が返ってきた
「はっや!」
思わず声を出してしまい、回りの視線を集めてしまった。
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