35 / 41

偽り(尊)

「いつまで、こんな事続けてるの?」 「・・・・」 仕事が終わり帰ってくると、今日も充が来ていて一人でビールを飲みながらゲームをしていた。 准君は、頭痛がすると言って、もう寝たらしい。 「頭痛も、記憶喪失が関係していると思う」 「頭痛・・」 確かに事故の後遺症かもしれない・・記憶が戻るのか? そうなってしまったら、俺は・・不安にかられ、思わず胸を押さえると、溜め息をつきながら言った。 「いつまで・・嘘をつき続けるつもり?」 「うん・・・・」 何と言えばいいか言葉が出てこなくてソファに座ったままうな垂れた。 (分かっているよ) このままで良いわけないのは分かってる。 分かってはいるが、それでも 「もうちょっと・・もうちょっとだけ・・」 准君と過ごす今をもう少しだけ 「分かってる?紗希さん・・亡くなったんだよ?こんな所に居て良いのかよ・・母親心配してないの?」 「母さんは・・准君の側に居てやってくれって・・」 事故を起こしたのは姉さんだ。 娘を亡くした悲しさも勿論あるが、記憶を失った准君を母親も心配していた。 「それにしたって、嘘はいけないんじゃないの?」 溜め息をつきながら俺を見た。 「っ・・」 充の言葉に唇を噛んだ。 「准と紗希さん・・婚約してたんだろ?」 「・・・・・」 その言葉に胸の奥が締め付けられる。 「藤堂さん・・」 「だって・・そんなの准君だって、おかしいじゃん!」 堪えきれない思いが言葉となって溢れてくる。 俺、分かっていたんだ 准君が俺を見ていた事や 准君の気持ちも分かってた 俺だって、同じ気持ちだった 「それなのに!なんで姉さんなんだよ!」 「はあ・・あなたの気持ちは分かるけどさ」 「充には分かんねーよ!」 俺の気持ちなんて・・誰にも分からない 准君が何を考えていたのかも・・全然理解できない 俺たちは、同じ気持ちだったはずだ 「藤堂さん、准は、本当に・・あなたの事がさ・・・」 充は、辛そうに眉をしかめている。 「だったら・・なんで・・・」 悔しさに体が震える なんで、そうなるのか・・俺には全然分からない 俺は・・ 俺は気持ちを伝えようとしていたんだ それなのに 『尊・・あのね、彼と付き合う事になったの・・』 姉さんに言われた時・・天と地が逆さまになった気分だった 何故だ!そうなった? なぜ、俺は准君に紹介したんだと後悔した 「 充・・お願いだから邪魔しないで」 「何言ってるんだよ!そんなの・・・だって・・」 「お願いだよ」 俺といる准君は、楽しそうに笑ってくれるんだ 一緒のベッドで眠っても、俺から逃げない 記憶を取り戻してしまったら、もう彼に触れることはできなくなるかもしれない。 「本当に・・准君が好きなんだ」 押さえられない感情に涙が溢れた。 「はあ・・藤堂さん」 肩を落としながら俺の横に座ると、手を握ってきた。 「准の気持ちをさ」 「夢は、いつか冷めるって分かってる・・」 「・・・・だったらさ」 充が、呆れているのは分かる。 でも・・ もう少しだけ・・

ともだちにシェアしよう!