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困惑
・・暫く離れてみてはどうですか?・・
先生の言葉に、一瞬頭が真っ白になった
「・・・え?」
「あ、いや・・あくまで一つの提案ですよ?」
慌てた様子で顔の前で手を降りながら言うと
「新しい・・人生を歩むと言う選択もあるんじゃないかな・・と思ったんです」
そう続けて言った。
「新しい人生・・ですか」
それは、どういう人生なのか想像できない。
「失った記憶が、一生戻らない可能性もあります。勿論、ふとした瞬間に戻る可能性もありますし」
先生は眉をしかめている
「・・・・」
記憶が戻らない・・か
言われて、そういう可能性もあるのだと、思った。
いつかは戻るものだと思っていた。
(そうか・・考えもしなかったな)
「ずっと、思い出さなければいけないと言う脅迫概念に苛まれるかもしれない・・でもね、今のままでも生きていけるんですよ」
そう言って先生は柔らかい笑みを浮かべ、俺の手を握ってきた。
「私が、雨宮さんの力になります」
「先生・・・・」
なんだろう
戻らないかもしれないと言う事に俺はショックを受けている。
思い出さなきゃいけないのに
そうしないと・・
尊と一緒にいられなくなる
「っ!雨宮さん!?」
不意に三枝先生が声をあげて握っていた手を離した。
「あ・・あれ?・・何だろ・・」
頬を伝う涙の感触に自分が泣いている事に気づいた。
「・・・雨宮さん・・」
「なんでだろ・・涙が止まらない・・」
頬を伝う涙を何度拭っても止まらなかった。
溢れる涙を手の甲で拭った。
「あの、・・雨宮さん」
何か言いたげに、口を開いたが
「すみません・・俺、帰ります」
遮るように立ち上がった。
「あ・・いや、ゴメン・・余計な事言いました・・あの、さっき言った事は」
「いえ、余計な事じゃないです!・・また、来ますから」
申し訳なさそうに頭を下げる先生に、俺も頭を下げて診察室を後にした。
・
ダメだ
もう・・離れたくないんだ
嘘はつきたくないんだ
(なんで、自分がそう思うのか分からない)
無くした記憶が・・そう言っているのか
何故?
何で、そう思うの?
俺と尊の関係って・・何なんだろう
「はあ・・」
部屋に戻り、電気を点けないままソファに座り蹲った。
頬を擦ったからだろうか・・ヒリヒリする。
「・・なんで・・思い出せないんだよ・・」
頭を抱え、さらに蹲った。
離れたくないのなら・・なんで記憶が戻らないんだ!
日が沈み薄暗くなったリビングは静まり返っていた。
もう直ぐで尊が帰ってくるだろう。
起きていないと・・
尊にお帰りと言ってあげたい
そう思ったが俺はいつの間に眠ってしまった。
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