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『葛藤』
運命の番とはいえ生徒である俺に手を出したことで拓馬 さんに処分が下るのではと反対する俺に対して、隠すような不誠実な付き合いをするつもりはない、と拓馬さんは番になったことと俺が妊娠したことを学園長に話をした
学園長は俺と一対一で話をする場を設けてくれて、拓馬さんとの関係が同意であることを確認すると温かく祝福をしてくれた
辞める必要はないと言い、産休育休サポートについて事細かに教えてくれさえした
白梅学園では学生の間に妊娠してしまうΩも多くないと言う
そんなΩが将来路頭に迷わないよう通学しなくても卒業できる特別な制度がこの学園にはあるのだそうだ
学園内でも拓馬さんは俺との関係を隠さず関わってくれたお陰で、次第に俺らは学園公認の番となっていた
運命の番と出逢い、番になり、子どもを授かる
幸せの絶頂に居るはずの俺はあることに悩まされていた
「ぅ、え、っ」
「辛いな、穂積」
トイレに顔を突っ込み嘔吐する俺の背中を撫でてくれる拓馬さんに汚いものを見せてしまい申し訳ないと思いつつも、治らない吐き気にまた胃の中のものを吐き出した
拓馬さんの子どもを授かったことで、俺は酷い悪阻に苦しめられていたのだ
ご飯の匂いや香水の香り、強い匂いを感じると俺は吐き気を感じて嘔吐してしまう
お腹は当たり前に空くのでご飯を作ろうとすると嘔吐、食べようとすると嘔吐、と俺が口にできるのは水とゼリーやアイスなどの軽いものしかなかった
お陰で体重は減少する一方で、主治医に入院を余儀なくされてしまった
「今日は具合良さそうだな」
入院してからというもの、拓馬さんは毎日仕事帰りに会いに来ては少し話をして帰っていく
働いて疲れているから休みの日だけでいい、と伝えても毎日顔を見ないと心配で落ち着かないから、と病室に姿を見せるのだ
そんな拓馬さんに申し訳ないと思いつつも、俺は嬉しく思っていた
主治医は流石プロで、時には薬を処方しながら俺が食べられるものを探し出し、あの手この手であれだけ吐いて食べられなかった俺が普通に食事を取れるほどに回復させてくれた
腹の子も順調に大きくなり、そろそろ悪阻も落ち着きを見せていたため、あと1週間で退院することが決まった
「拓馬さん」
「ん?」
「来週には退院していいって」
俺の言葉に拓馬さんは優しく笑ってお腹を撫でてくれた
「そうか。…なあ、穂積」
先程まで笑顔でお腹を撫でていた拓馬さんは、その手を止め急に真剣な顔になって俺の名前を呼ぶ
その顔に何だか嫌な予感がして俺の顔も強張った
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