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『葛藤』2
「何?」
「辛かったら、無理しなくていいからな」
「…え?」
「穂積が苦しんでまで、子どもを産まなくても」
拓馬さんの言葉を理解すると同時に、堪えきれずその頬を思い切り張った
驚き目を見開く拓馬さんの左頬は既に赤みが増してきていたが、それでも俺の怒りは収まらない
「どうして、そんな事…!」
「…穂積が悪阻で苦しんでいる時からずっと思っていた」
「っ、絶対嫌だ!俺はこの子を産む!俺がもし死ぬと決まっても、この子だけは産んでから死ぬ!」
「穂積」
半狂乱になる俺を落ち着かせようと拓馬さんは俺に手を伸ばすが、俺はその手も叩き落として拓馬さんから距離を取る
「…やっぱり、子ども欲しくなかった?」
「違う!」
「最初に産んでいいって言ったのに。ここまで大きくなったのに、どうして」
これ以上拓馬さんの言葉をこの子に聞かせたくなくて、周りの音を遮断するように腹を抱え込む
「穂積が心配なんだ」
「この子は心配じゃないの?」
「それは心配だけど、」
「なのにこの子を殺そうとするの?」
俺の言葉に拓馬さんはハッとした顔をして目線を逸らした
「俺が苦しんでるのはこの子が必死に生きようとしているからだよ。拓馬さんには見えないし聞こえないし感じないから分からないかもしれないけど、この子は俺のお腹の中で生きて、成長してるんだ」
「穂積、」
「拓馬さんが少しでもこの子の誕生を祝えない可能性があるのなら、俺は1人でこの子を産む。たとえ片親になっても、俺が幸せにしてみせる」
「穂積」
「拓馬さんが俺のことを心配してくれるのは分かってる。けど、拓馬さんだってこの子の父親なんだ。この子を殺そうとしないで。…この子を、愛してあげて」
「…穂積、ごめん。泣くな」
拓馬さんは俺のことを抱きしめ、腹を優しく撫でた
大好きな拓馬さんとの子ども
まだ産まれてもいないけれど可愛くて愛しくて堪らない存在を失いたくはない
「苦しそうな穂積を見てられなかったんだ。子どものことを蔑ろにしていたな。もう言わない」
「…俺が苦しくても辛くても頑張れるのは、この子が拓馬さんとの子どもだからだよ」
「…ああ。本当に、ごめん。愛してるよ」
拓馬さんが俺を大切にしてくれているのはわかる
それでも、愛の結晶である子どものことも同じように大切にしてくれないのなら、俺は拓馬さんと共に生きることはできない
自身の失言に気がついたようで、俺の腹越しに赤ん坊にキスを落とし懺悔する拓馬さんの姿を見て今回だけは許してあげようと拓馬さんの赤くなった頬を撫でた
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