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『宝物』

退院後はやれ重い荷物を持つな、激しい運動はするな、と人が変わったかのように腹の子を心配する拓馬さんは口煩くなり、俺の行動を制限してきて少し鬱陶しかった それでも寝る前には必ず、まだ膨らみを見せない腹に顔を寄せ優しく話しかける拓馬さんの姿に俺は幸せを感じたのだった 6ヶ月を過ぎる頃には腹は少しずつ膨らみを見せ始め、拓馬さんは胎動を感じようと暇があれば腹に耳を寄せ触っていた 初めて胎動を感じた時の拓馬さんの喜びは一入で、瞳を潤ませていた程だった 7ヶ月を過ぎると急に大きくなるお腹に苦労する俺を拓馬さんは全力でサポートしてくれた 特にお腹が張ってしゃがめない俺の靴下や靴の着脱を進んで手伝ってくれていた 8か月を過ぎる頃にはお腹は既にはち切れそうで、拓馬さんは予定より早く産まれてしまうのではないかと常に心配していた そして9か月を過ぎた頃、俺は待望の拓馬さんとの子どもを産んだのだ 元気な双子の男の子だった 双子だと分かったのは4か月頃 悪阻が酷く入院していた時だった 拓馬さんが子どもを諦めようと遠回しに言ってきたのも、Ωの俺の体では双子を出産するのは体に負担が大きいため難しいと主治医に言われたからだ それでも産む方法としては、ある程度子どもたちが育った頃合いに陣痛促進剤を使い出産するか、お腹の中で大きくなるまで育て、帝王切開で出産するかの2通りがあると伝えられた 丈夫に産まれてほしかった俺は帝王切開を希望したが、俺の体の負担を心配した拓馬さんは頷いてはくれなかった 結果少し揉めることになったが、俺の覚悟を知った拓馬さんが帝王切開で産むことに賛同してくれて今がある 「穂積、お疲れ様。産んでくれてありがとう」 そういう拓馬さんの瞳はやはり潤んでいて、笑って頭を撫でてやる 「こちらこそ、俺に宝物をくれてありがとう」 俺の言葉に拓馬さんは顔を歪め、遂に涙を溢した そんな拓馬さんに俺は思わず声を出して笑ってしまった 双子は晴希(はるき)晴翔(はると)と名付けられた 一卵性のためか、起きるのも寝るのも泣くのも同じタイミングで苦労は2倍だが愛おしさも2倍だった 拓馬さんは2人を目に入れても痛くない程可愛がり、進んで世話をして遊んでいる 既に親バカになっている拓馬さんを少し心配しつつも、3人で笑い合っているこの空間を見るのが最近の俺の楽しみになっていた 願わくば、2人の未来に幸多からんことを

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