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年嵩連中
「…ということがありまして」
真知子は、一連の出来事を実兄たちに話した。
真知子は6人兄弟で、兄が4人妹1人という家族構成になっている。
この6人は全員、長居貴一郎氏の嫡子であり、高貴が言う「年嵩連中」「おジジさまたち」というのは、基本的に彼らのことをさしている場合が多い。
「そうか。使い走りなんかさせてしまって悪かったな、真知子」
「構いませんよ、治兄さん」
長兄にあたる治が、真知子に謝罪する。
「大貴と譲…あの親子、本当のバカだな」
次兄の仙次 が、呆れてため息を吐く。
この兄は、26年前の事件の際に散々手を煩わされたものだから、豪貴のことも譲のことも大貴ことも、快く思っていない。
「言えてるね。もっとも、俺は譲のことを従順だけが取り柄のアホだと思ってたけど、今にして思えば、アイツはまだ賢い方だったんだよ。少なくとも、マンションの廊下にゴミを捨てたりしなかったし、ベビーシッターや家政婦とトラブったりしなかったし。他の番はそいつらが気に入らなかったら子どもの面倒も家事も自分でやるぐらいのことはしてたぞ。ったく!大貴の番どもときたら!!」
大貴が去った後のアフターケアに心底うんざりさせられた総之介は、あからさまに怒った様子でいた。
「それでも、大貴と譲が救いようのないバカだって事実は変わりないさ。高貴は、そう簡単に動かせる相手じゃないぞ」
4番目の兄の正司 が、フンと鼻を鳴らした。
「ああ、アイツはその気になれば、ここの会長の座を乗っ取ることもできると思う。幸いなことに、本人にはそんな野心は全く無いみたいだが」
治は高貴をそう評価している。
「まあ、彼の願いはあくまで「平穏無事に暮らすこと」ですものね。社内で出世争いするのも、大貴や豪貴のように番をやたらと増やしてトラブルを起こすのも、まっぴらごめんと言っていました」
「まあ…揉め事を起こさないでいてくれるなら、それはありがたいことだがな」
真知子の淡々とした報告を聞いた治の背中に、ほんのりと悪寒が走った。
治はかつて、高貴を「事なかれ主義のどうしようもない男」と認識していた。
外見といい振る舞いといい、彼は味方につけても頼りにはならないだろうと考えて、ろくに接近することもなかった。
しかし、フタを開けてみれば、高貴はとんでもない化け物だった。
自身が望む「平穏無事な暮らし」のためなら、その障害となる誰かをこうして何の躊躇いもなく陥れるのだから、心底身震いさせられる。
大貴の児童虐待発覚は、彼が総之介に連絡してきたことから始まったし、正司が編集長を務める週刊誌に、大貴が犯したレイプや虐待を伝えて売り込んできたのは高貴だ。
今回のことはおそらく、自分たちに対する警告も兼ねているのだろう。
たとえ血を分けた親兄弟であろうとも、自分の生活を脅かす者は許さない。
もしそうするなら、お前たちも大貴や譲のようにしてやる、ということなのだ。
「各自、高貴のことは引き続き警戒して取り組め」
治の警告に、全員が息を飲んでうなづいた後、解散した。
「失礼しますね、お兄さまたち」
真知子は兄たちに一礼すると、その場を離れていった。
自分はもう、会社とも高貴とも無関係なのだから、いつまでもここにいる必要はない。
高貴と同様に、真知子だって出世争いや番を増やすことには興味がない。
大貴や譲を落としてまで守りたいと思うほどに愛する家族のもとへ、彼女は急いで帰っていった。
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