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あなたと雨傘 ⑶

 俺がカフェに行くのは、月曜日の昼過ぎと決まっていた。月曜日は仕事が休みなのだ。残念なことに今はデートするような相手はいないので、1人で行動することが多い。  勘違いしないでほしいのだが、友達がいないわけじゃない。ど平日の真昼間に予定の合うような友達がいないだけだ。  要するに、月曜日の俺は暇を持て余しているわけだ。  こうしてこのカフェを見つけたおかげで、毎週とは言わないが、暇な休日のうちの1時間ほどをここで過ごすのが習慣となりつつあった。  通ううちに久我さんともよく話すようになった。彼女はカフェの社員で、務めてから結構長いそうだ。彼女の仕事ぶりは真面目で、真心があって、丁寧だった。他のスタッフからも慕われているのがよくわかった。今年28歳になる俺より5つ上の、33歳の主婦。今はまだ子どもはおらず、旦那さんと二人暮しとのことだ。  そして、あの男性客の言った通り、俺は彼と度々店内で出くわした。  彼も俺同様、いつも一人だった。ただ彼の場合、暇潰しとしてここを利用している俺とは違う。身だしなみは必ずスーツだし、どうやらお茶をしながら仕事をしているらしかった。手に提げている鞄からパソコンを取り出して、見事なブラインドタッチでキーボードを叩く。その時の彼は基本穏やかな表情だが、時折険しい表情を浮かべることもあった。そういう時は大体電話をかけに一旦外に出るのが彼のパターンだった。仕事で生じたトラブルかなにか、そういった案件の対応をしているのだろう。  一方で久我さんと話す時の彼は、仕事のストレスから解き放たれてリラックスしているふうに見えた。笑う時に口元に手を添える仕草は、彼の癖らしい。節くれた長い指先が、男らしくて格好いい。だがそこに居座るキラリと光る指輪の輝きは、綺麗だとは素直に言えない自分がいた。  そんなある日。忽然と彼の左手から指輪が消えた。  その日はうっかり忘れてきたのだろうと思って気に留めなかった。しかし次に彼を見かけた時も、その次のときも、指輪は外されたままだった。  彼と言葉を交わすことはほとんどなかったが、顔見知りくらいにはなっていた。目が合えば笑いかけたり、会釈を交わしたり、運良くすれ違ったらば短い挨拶を交わしたりした。その時の彼からは、とてもいい匂いがした。  そして隙を見ては、確かめるように指輪の外された左手を盗み見、胸を撫で下ろしていた。

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