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あなたと雨傘⑷

 とある日。いつものようにカフェを訪れたのだが、その日は普段の店内の様子と違っていた。入店してまず感じたのは、あたたかさだ。深い赤や、ブラウン、オレンジを基調としたあたたかみのある色調のインテリア。紅葉した葉っぱや、小さな松ぼっくりのオブジェなんかがレジカウンターやカウンター席に飾られている。今、9月も半ばに差し掛かり、季節は秋。店内も秋仕様に模様替えされていたのだ。  ...おっと、ここもか。テーブルのメニュー表も秋仕様に一新されていた。ほうじ茶やナッツを使ったラテ、かぼちゃやさつまいもをメインにしたスイーツなど、秋の風味が盛りだくさんだ。  久我さんがオーダーを取りにきてくれた。新しいメニュー表を眺めながら、少し悩む。  安定のアイスカフェオレか、新メニューか。  悩んだ末、俺は後者を選んだ。 「今日は、ほうじ茶ラテにします」 「あら!珍しい!」 「せっかくの新メニューだから、冒険しようと思って」  久我さんは嬉しそうだった。こんなに喜んでくれるのなら、たまには違うものを頼んでみるのもいいかもしれない。実際、ほうじ茶ラテは美味しかった。カフェオレもそうだけど、多分俺はミルクの風味が好きなのだ。熱々のラテを息をかけて冷ましながら、ちびちびと秋の風味を楽しんだ。  30分ほど経った頃だ。ふと窓の外を見ると、小ぶりの雨が降っていた。困ったことに今日は傘を持ってきていない。今朝見たニュースの天気予報では雨の予報はなされていなかったのだ。とは言え、秋は気候の移り変わりが激しい時期だから突然の秋雨には気をつけるように、とも言われていたような気がする...。自宅から店までの移動は、近いこともあって常に徒歩だった。わざわざタクシーを呼ぶのも阿呆らしいし、今なら走って帰ればずぶ濡れにならずに済むかもしれない。  今日は、まだ彼は来ていなかった。俺が店に滞在するのはほんの1時間ほどなので、毎回彼の来店とタイミングが合うわけではないけれど、早く帰ればその確率は落ちるわけで。気は進まなかったが、ずぶ濡れになるのも避けたいところ。しぶしぶ店を出ることに決めた。残っていたほうじ茶ラテを飲み干す。最後の最後まで美味しかった。

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