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第9話

「こちらが彰人様のお部屋で、寝室を挟んで隣が泰都様のお部屋になります」  どうぞ、と扉を開かれれば、広々とした部屋にダンボールがすべて運び込まれていた。 「ソファやチェストなどはこちらでご用意させていただきましたが、ご要望があればすぐにお望みの物をご用意いたしますのでご遠慮なく仰ってくださいませ」  好みや拘りもあるだろうと三井は気を使ってくれるが、彰人は小さく首を横に振って大丈夫だと伝えた。もとより家具にはさほど拘りなどない。 「お気遣いありがとうございます。拘るものはすべて持ってきましたから、これで十分すぎるほどです」  覚えたかどうかはともかくとして、一通り部屋は案内してもらったのでこの私室で最後だろう。その考えを肯定するかのように荷解きの手伝いをすると申し出た三井に、彰人は首を横に振ってやんわりと断った。彰人は桜宮にいる使用人にさえ己の私物を触らせたがらない。それを多くの人は彰人が潔癖であるからだと誤解しているが、彰人はその誤解を解こうとも思っていなかった。それで事が上手く収まるのなら好都合とさえ考えている。 「では、私共は勤めに戻りますが何か御用がございましたら扉の横にありますボタンを押していただければ馳せ参じますので、ご遠慮なくお申し付けくださいませ」  そう言って三井は使用人たちを伴って扉の向こうへ下がっていった。パタンと小さな音を立てて閉められたその空間にホッと息をつく。積み上げられたダンボールを見て、本当は少し休みたい気持ちもあるが今から荷解きをしなければ夜までに終わらないだろうと頭の中で計算して、彰人は少々重い身体でダンボールのひとつに手を伸ばした。

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