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第10話
北大路家が用意してくれた家具はどれも美しい。それに少し気後れしながらも、ダンボールを次々と開けては己の思うように仕舞っていく。途中何度か休憩しないかと扉の向こうから声をかけられたが、彰人は今日中に終わらせてしまいたいからとすべてを断り、休む間もなく手を動かし続けた。気づけば窓の外はすっかり暗くなっており、中身が残っているダンボールも残り五つとなっていた。その中から取り出した幾つかの箱を、衣類に紛れるようにして奥に隠す。誰にもみつからないように。
沢山のモノで箱を隠した後、残りのダンボールから次々と大小様々なものを取り出しては絨毯の上に並べていく。それらはすべて手触りの柔らかなぬいぐるみやブランケットだった。最後に臙脂のブランケットを取り出し、動き回っていた彰人はようやく座り込んで頬を埋めるようにブランケットを抱きしめた。ふわりと鼻腔をくすぐったように思える、優しい香り。それはいつも彰人を安心させてくれる。知らず入っていたのであろう肩の力が抜けていった。その時、静かな空間にノックの音が聞こえる。
「彰人様、泰都様がお帰りになりましたが、お出ましになれますでしょうか」
三井の声にハッとした彰人はすぐにブランケットを手早く畳み背中にファスナーのついた大きな熊のぬいぐるみの中に隠し、乱れていた髪を手で軽く整えてから扉を開いた。
「はい、行きま、す…………」
てっきり三井が一人で迎えに来たと思っていた彰人は目の前で遊び慣れたような――良く言えば人懐っこい笑みを浮かべた泰都の姿に大きく目を見開いた。
「やぁ。荷解きは終わった? 今日は出迎えてやれなくてごめんね」
ちゅ、っと額にキスをした泰都に照れと呆れが混じった、何とも言えぬ目をした彰人の姿を見て三井がクスリと控えめに笑う。どうせ微笑ましいと思って笑ったのであろうが、残念ながらそんな可愛らしい感情も甘い感情も泰都には無いことなど彰人は言われずとも理解している。なんせパーティーなどで顔を合わせることのあった泰都は、その頻度などさほど高くないというのに美しい女性やオメガの男性の額や手の甲にキスをする姿など飽きるほど見てきたのだから。
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