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第13話
「彰人様、泰都様の申される通り、どうぞ何もお気になさらずお寛ぎください。それよりお二人共、せっかく今日は彰人様がお引越しされてきたのでシェフが腕によりをかけてお夕食をご用意しておりますのに、お食べにならないのですか? 彰人様も今日は荷解きでお疲れになりましたでしょう。当家のシェフが作りました料理はとても美味でございますよ。どうぞお召し上がりになってください」
さぁ、じゃれあってないでどうぞ、という声が笑顔の向こうから聞こえるようだ。口達者な泰都も三井には敵わないのか、苦笑しながら彰人の腰に腕を回して促した。実に優雅に触れられた彰人はビクッと身体を跳ねさせて身じろぐが、思いのほか強い力に逃れることができない。
「……放せ」
泰都が取り繕わなくて良いと言ったのだと開き直って、彰人は不機嫌を隠そうともせずに彼をねめつける。今までも、彼がこうして腰を抱いてエスコートする姿を幾度も目撃してきた。その相手はそれこそ両手で数え切れないほどに様々であったが、その中に彰人が含まれたことなどない。番予定だとはいえ未だ契約を結んだわけではなく、ただ結婚しただけでそこに愛情や恋情などないのだから何もこんなことをする必要はないというのに、彼はさも不思議と言わんばかりに首を傾げた。子供や大公妃のように美しい者がすれば可愛らしい仕草ではあるが、残念ながら上背もある男がしたところで可愛くとも何ともない。
「え? 別にこれくらい普通でしょ? 俺たち夫婦なんだから。あ、伴侶とかパートナーとかの方が良い?」
「呼び方なんてどうでも良い。それより、あなたが言ったようにここはあなたの家の中で、周りはあなたの腹心ばかりなんだから、別にこんなことしなくても良いだろう? 愛しているフリも仲が良いフリもする必要はない」
喧嘩をする必要もないが、彰人は他者と一線を引く性格であり、そうは見えないだけで泰都もそれに関しては同じだ。ならば泰都の言葉を借りるのであれば家の中でくらい無駄に触れる必要などない。
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