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第16話

「どうしてそういう考えになるのか、意味が分からない」  結局は無駄に終わった大暴れに疲れ小さくため息をついた彰人であったが、目の前に並べられた純和風の美味しそうな料理に、そういえば三井が彰人の引っ越しを歓迎してシェフが腕によりをかけて作ってくれたと言っていたのを思い出す。彰人が洋食よりも和食を好んでいることを誰かに聞いたのだろうか。そう考えると目の前の料理にも、作ってくれたシェフにも申し訳なく思って、彰人は次々に零れ落ちそうになるため息を呑み込んで箸に手を伸ばした。 「彰人も頭が固いというか、生真面目というか。そんなに難しく考えていたら生きにくいでしょ。何も軽く考えろとは言わないけど、ある程度はあえて流されてみて楽しまないと。先の事が誰にも分らないなら、行きつく場所が幸か不幸かなんてそれこそわからないんだから。感情面なんてものは特にね」  そんな簡単に言えるような感情を、彰人は持ったことがない。泰都の言うことはなんとなく理解できるが、それに頷けるかと問われれば答えは否だ。 「僕があなたのようになるなんて不可能だ」  石橋を叩いて叩いて、これでもかと言わんばかりに準備と幾通りもの可能性を考え、それに対しての解決策を模索しなければ渡ることのできない彰人にとって、泰都の言う〝あえて流されてみて楽しむ〟なんてことは考えることさえできない。こういった発言は前々から何度か聞いたことはあるが、その度に彼は己とは違う次元で生きているのではないかと本気で考えてしまう。それほどに、泰都と彰人は性格が真反対だった。現に今も難しく考え込んで渋面を作る彰人に対して、泰都はやれやれと言わんばかりに肩をヒョイとすくませて大げさに苦笑してみせる。

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