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第3話 一度やってみたかった

「で、こっからどうすんだ?」  こんな真夜中でも宿はとれるのかな? って思ったけど、さすが観光都市というか宿の数自体がまず違うわけで、探し方次第ではいくらでもなんとかなりそうというのは、新幹線の中で検索済み。  しかし、京都駅の前にしては、あまりネオンがない気がするんだけど。  もしかすると駅の反対側は賑やかかもしれないしな。  あとは志信の希望次第。 「んー……まだ地下鉄あるけど、夕方の今でさすがに歩き回るのはキツイかなあ……ってことで、タクる」  わざとらしく腰をさすりながら、にやにや笑いで志信は俺をタクシー乗り場に引っ張る。  ここでも観光都市だなって思うのは、当たり前のように複数台待機していること。  っていうか。 「駅から離れんのか?」 「京都駅周辺は、夜遊びスポットじゃねえから」 「ん?」 「ターミナル駅ってだけで、周辺は寺とホテルと企業が多いんだと。夜遊びするなら四条通って、斉木くんが」 「斉木くん?」 「お前の連れの友達。ほら、バンドでベースやってるオレンジの髪の子の仲良しの子で、関西弁の」  んー…と、記憶をたどる。  仕事上、芝居屋やバンドマンの知り合いは多い。  ましてその連れとなると…… 「ああ、なんかゆるーいしゃべり方の奴?」  ちょっとイイ感じのバンドの、スタッフでもないんだろうけど身内扱いされてたやつの中に、関西弁でひょろっとしてて緩いしゃべり方するやつがいた。  そういえば京都出身だとか言ってたっけ。 「そうそう。前に、彼にガイドしてもらったんだよ……で、さっきメッセ送って確認してみた」 「何を?」 「うん? まあ、いろいろ。前から行ってみたかった店とか、な」  タクシーに乗ってから「四条河原町の降りれるとこで」なんて、慣れた風に指示していたのは、きっとその彼から教わったんだろう。  大きな寺院っぽいシルエットのあたりは静かなものだけど、いくつか大きな通りを過ぎるごとに、少しずつネオンが増える。  なるほど。 「おにぃさんら、どこ行かはるんですかね? 今の時間やったら、割とどこでも停められると思いますよ」 「んーと、木屋町って言ってたかな。四条から北に向かう予定なんですよ」 「ほな、木屋町上がらはるんですね。ほな、東向きに停まりますわな」  タクシーの運転手と志信の会話を聞いて首を傾げたら、志信が笑いながら解説してくれた。  曰く、出される地名は通りがクロスする十字路を指しているそうだ。 「四条通は東西に走る道路で、河原町通は南北に走ってる道路。で、その交差点が四条河原町」 「行き先が木屋町で四条より北て言わはったし、今、河原町通北上してるんで、右折して東んとこで降りはったら横断歩道渡らんでええんで」  解説しているうちにその場所につく。 「この辺、普段は人多いさかい停車でけんのですよ。夜中やしね、ちょっとでも降りて楽な方がええでしょ」  日中ではありえないほど空いているらしい。  ものの十分足らずでタクシーを降りた。  うん、確かにこっちの方がネオンも多いし人もたくさんいる。 「さて、じゃあ行くか」  志信の先導で歩き始める。  行先はよくわからないままだけど、まあ本人が楽しそうだからいいだろ。  地下道の入り口があって、小さな川。  解説しながら川を越えた。   歩道と一体化していて、橋なのか何なのかよくわかんないところが、ちょっとしたスペースになっていて、そこで路上ライブをしている奴がいた。 「このまままっすぐ行ったらすぐそこが鴨川で、越えてまっすぐ行ったら祇園があって、もっと行ったら八坂神社な。今回は行かねえけど」  目の前の横断歩道は渡らないで左折、川沿いに少し歩いてから右折。 「これ、高瀬川」 「森鴎外?」 「らしいぞ。こんな小さい川かって思うよな」  川を渡りなおして入り組んだ道を入ると、昭和の香り漂う喫茶店があった。  おしゃれさとはあまりご縁のない、昔のチェーン経営の『ざ・喫茶店』って感じの店。 「はい、到着~」 「ここ?」 「そう。来てみたかったんだよな」 「今から? 宿もとらずに?」 「ああ、今夜はここ、オールだから大丈夫。始発まで過ごせる」 「はああああああ?!」  驚くだろ。  京都まで来て喫茶店で夜明かし、てか?  看板を見たら、確かに金曜土曜は朝まで営業と書いてある。  書いてあるけど!  にこにこと楽しそうに志信は店に入っていく。  運よくあいていた席に座り、楽しそうに周りを見回し、「おお~」なんて笑いながらオーダーをする。 「一度してみたかったんだよ、アルコール取り扱ってない純喫茶でオール」 「はあ」  以前から、古参の役者さんたちと話していて、やってみたかったんだと志信が笑う。  アルコールを置いていないような昔ながらの喫茶店で、朝まで好きなこと――と言いつつ、多分芝居の話や台本の読み込みをする、ってやつ。 「あの人たち『お前らは便利だけど可哀想だよなあ』とか言いやがるしさあ」  ネカフェとか、ファミレスとかじゃない、純喫茶。  なるほど確かにこの店はそうだ。 「あ、ここ、喫煙可だから」  吸いたきゃどうぞ、と志信が言う。  なんというか。  うん、これはこれで面白いんだろう。  始発まで居座るから、と、長居する気満々な志信。  周りを見れば同じように夜を楽しむ人たちがいて、なんだかおかしくなった。  

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