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第4話 これでも多分観光
『待つこと』も仕事の一環と言われるくらい、拘束時間の中に待ち時間がある俺たちは、それなりの環境さえあれば時間を使うことに苦労はしない。
志信は持参した台本に取り組み、俺は俺でスマホ片手で過ごした。
ゆったりとすぎる時間が、気持ちいい。
さわさわと人が動き始める気配を感じたのか、志信がふと顔を上げて時間を確認した。
「ああ、そろそろ始発か」
まだ空は暗いようだけど、時間としては街が動き始める時間で、店にいた客たちも移動を始めるようだ。
「どうするんだ?」
「んー……明るくならないと、どうにもな。朝飯食ってから、出るか」
志信の中では次の行き先がちゃんと決まっているらしい。
追加でモーニングセットを頼んで、平らげる。
外がすっかり明るくなってから店を出た。
「ええと、こっちからがいいかな」
考えた後で先導する志信について行って、昨日歩いた川沿いの道に出る。
うー…ん、と伸びながら志信が言った。
「夕方には帰りの新幹線に乗った方がいいよな?」
「そうだな、俺は明日打ち合わせあるから」
「じゃ、市内観光っていう観光はできないかあ……」
「する気あんのか?」
「ない」
ぶらぶらと朝の道を歩く。
少し行くと、ちょっと大きい通りに出た。
「じゃ、気分だけ有名どこ見とくか」
「有名どころ?」
道を渡って、左折。
ほんの少しだけ歩いたところにある居酒屋をすらっとバスガイド風に掌で示して、志信が言う。
「『こちらにございますのが、かの有名な池田屋でございます。祇園祭の夜、京の都に火を放とうとした維新志士たちを、新選組が捕縛したという、池田屋騒動の舞台になったところです』」
池田屋……って。
「あの?」
新選組で討ち入り大活劇があって司馬遼太郎の作品では沖田総司が血を吐くあの池田屋?
「ほれ、池田屋だろ」
看板は確かに池田屋だけど、居酒屋。
どこにでもある、ごく普通の、居酒屋。
入口の横には詳細を解説した看板があるけど、でも、ただの居酒屋。
「居酒屋にしか見えねえんだけど」
「池田屋跡地に建つ、池田屋という名の居酒屋だ。階段落ちできる大階段もあるらしいぞ」
「へえ」
「はい、市内観光した」
「なんだそりゃ」
「あ、あと、やじきた像と土下座衛門像は、見とこう」
ゲラゲラと志信が笑う。
ご機嫌だな。
その勢いで案内されたのは、歩いてきた道からはちょっと外れた鴨川沿いに建つ弥次喜多の銅像と、バスターミナルの目立つところで土下座している像。
「おお、ホントだ。斉木くんが言ってた通り、土下座だ」
「この男は御所にいる天皇に向かって挨拶してるらしいぞ?」
銅像の解説には、土下座とは書いてないんだけどな。
何とかって侍は真面目な性格なんだろうなって、顔してる。
いや、この顔が本人そっくりだとは限らないんだけど。
「京阪三条で待ち合わせする時『土下座衛門で●時』で、迷子にならないんだってさ。駅の改札って言った方が、迷うらしい」
「それも斉木くん情報か?」
「そうそう」
笑いながら京阪電車の駅に入る。
次に志信が向かいたい場所は、ここから電車で向かうみたいだ。
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