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第10話 俺以外みんな最強
「エイリ、おかわり」
「はい、兄さん」
いつも通りを心掛けよう。
そう思いながら、俺はお茶を飲む。
今は母さんもいるから何もしてこないだろうし、エイリに俺はお前のことを弟として見てるぞってことを分からせないと。
俺はお前のことをそういう感情で見ないからなって、思わせないといけない。
この世界での俺のミッションだ。魔王退治より難しいかもしれない。まぁある意味でコイツも魔王なんだけどさ。
「あれ、そういえばお父さんは?」
ふとエイリが母さんに聞いた。
そういえば二人は一緒に出かけたはずなのに、帰ってきたのは母さんだけだ。
「あの人ね、なんか騎士団の方に呼ばれちゃったの。だから今日は帰りが遅くなるって」
「騎士団って、城に呼ばれたってこと? 引退した父さんに何の用事があるんだ?」
俺が聞くと、母さんはうーんと頬に手を添えて困ったような表情を浮かべた。
「何でも南の方で魔物が凶暴化してるらしくて、お父さんの意見も聞きたいって仰っていたわ」
「魔物が……?」
「大丈夫よ。貴方達はお父さんが守ってくれるから、心配しないで」
「う、うん」
アルトとして生まれてから魔物の話なんてあまり聞かなかったんだけどな。
この山にも獣はいても魔物は出てこないし。
あれ。魔物っていえば、その親玉である魔王様がここにいらっしゃるんだけど、その辺はどうなってるんだろう。
コイツは一応魔王の力を持ってる。バレないようにその力を隠してはいるけど、魔物の統率とか出来るのかな。
いや、でもコイツは魔王になりたくてなった訳じゃないしな。あくまで俺を生き返らせる手段として魔王を乗っ取ることを選んだだけだし。
「……俺にも、出来ることはないかな」
「何言ってるのよ、アルト。貴方達はそんな危ないことをしなくていいの。二人に何かあったら、父さんも母さんも悲しいわ」
「う、うん……」
これは元勇者だったからなのか。魔物と聞いたらジッとしていられない。
あの時、毎日のように魔物と戦った。みんなを守るために。そして今も、まだ魔物の脅威が襲い来る。
「…………兄さん、大丈夫だよ」
「エイリ?」
「僕たちのお父さんは強いんだから、何も心配いらないよ」
これは、どういう意味なんだろう。
単純に俺に大人しくしてろって言いたいんだろうか。
まぁ魔王がここにいる訳だし、ボス不在で統率も取れない魔物なんて怖くはないだろうけどさ。
俺にはもう勇者としての力がないんだから、昔みたいに動くことも出来ない。大人しくしてるのが正解なのかな。
「そうだな。それに、父さんが育てた騎士たちも強い」
「そうよ、アルト。母さんだって、まだまだ貴方達を守れるくらいの力はあるつもりよ?」
「それもそうだな」
母さんは元々城で魔道士として活動していた。それもSS級の魔導師だ。
俺は最強の騎士団長と最強の魔導師の子供なんだ。これほど心強いものはない。
しかも弟は魔王だし。俺が戦う必要性が全くなかったな。
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