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第11話 弱くなっても出来ることがあるのなら

 今の俺に出来ることはないと分かっていても、前世の記憶を取り戻してしまったことで気になって気になって仕方ない。  そわそわする。南の方に様子を見に行ってもいいのかな。でも俺、前みたいに戦えないだろうしな。どうするべきか。いや、大人しくしておくべきなんだけどさ。  今まで遠出らしい遠出をしてこなかった俺が急に出かけたりしたら怪しまれるかもしれないし、魔物が凶暴化してるんだったら余計に外出は自粛しろって怒られるかも。 「そろそろお夕飯の準備するわね。今日はアルトの好きなキノコのハンバーグよ」 「本当? 楽しみだな。じゃあ、俺は時間まで部屋で休んでるよ」 「ええ」  俺は立ち上がり、母さんに聞こえないくらいの声でエイリに部屋に来るように耳打ちした。  魔物の動きに関してはコイツの方が詳しいだろうから、色々聞いておきたい。  エイリは俺の考えを察したのか、仕方ないなって顔で頷いた。 「エイリは魔物の動きをどれくらい把握してるんだ?」  部屋に入ってすぐ、俺はエイリに聞いた。  エイリはやっぱりなって顔で、呆れたように溜息を吐いた。 「兄さん。さっきも言っただろ、魔物のことはお父さんたちに任せればいいんだよ」 「分かってるけど、状況を把握できないと落ち着かないんだよ」 「言っておくけど、この家で一番弱いのは兄さんなんだよ。前世では最強でも、今は最弱なんだからね」 「だーかーらー! 分かってるって! 知っておきたいだけだから!」 「…………本当だね? 白瀬は魔物を聞くとすぐに突っ込んでいってたから信用ならないんだけど……」  確かに俺は前世で魔物退治をしまくってたけどさ。報酬欲しいし、先に討伐しておいた方が後で楽だしさ。ついゲーム感覚で進めていたし、勇者になったことで精霊やら天使の加護を貰ってかなりチートキャラになってたから調子乗ってたんだよな。おかげで魔王と相打ちになったし。 「……兄さんの予想通り、僕は魔物の動向を把握してるよ。まぁ、把握できているだけで命令できるわけじゃない。彼らはもう魔王の指示で動いちゃいないからね。ただ獣としての本能だけで血肉や力を求めて人間を襲おうとしてるだけだよ」 「……そうか。強さはどうなんだ? 昔は魔王が魔物達に力を与えたりしてたんだよな?」 「うん。でも今は僕から彼らに何かを授けるようなこともしないし、僕自身も魔王の力を抑えてるからね。強さで言えば兄さんよりちょっと強い程度じゃない?」 「俺より、か……結局俺じゃ勝てないんだな」 「そういうこと。ただ、今回の凶暴化に関しては僕にもよく分かってない。もしかしたら魔物の中にある程度の知性のある奴がいて、そいつが何かしたのかもしれない」 「悪魔とかか?」 「そうだね。悪魔なら普通の魔物より知性があるから可能性はあるけど、魔物を凶暴化させて何がしたいのかが分かんない」  エイリでも分からないか。  まぁ魔物が何を考えていても俺にはどうでもいいんだけど、被害が大きくなるのは困る。 「心配しなくても、この山の近くに魔物は来ないよ。僕がいるからね」 「力抑えてるのにそんなこと出来るのか?」 「力の有無は関係ないんだよ。魔王という存在には手を出せないってだけ」  なるほど、魔物達の潜在意識にそういうのがあるのか。  コイツのそばにいれば魔物に襲われる心配はないってことだな。 「兄さん」 「なんだ?」 「僕に魔物を大人しくさせろって命令しないの?」 「なんで?」 「だって、僕は仮にも魔王だよ。抑えてる力を解放すれば魔物を管理することも出来る。君がそれを望めば、僕はいつでもやるよ?」 「何言ってんだよ。お前は魔王だけど、今は俺の弟だ。そんなことさせられるかよ」 「……そう」 「お前は魔物のボスになりたくて魔王になったんじゃないんだ。そんなこと考えなくていい。今の魔物は魔王の指示じゃなくて自分たちの意志で人間を襲おうとしてるんだろ。だったら、魔王のせいでも何でもないんだからお前が出る必要はない」 「…………うん」  そんな事よりも、俺に出来ることを考えないと。  父さんとも話がしたいな。俺ももうすぐ成人だし、守られてばかりも嫌だ。安全な場所でのほほんとしていられない。 「……白瀬は、本当に変わらないね」 「ん? なんか言ったか?」 「ううん。何でもないよ、兄さん」

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