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第16話 魔王ならうちでお茶してるよ
「ふあ、ぁ……」
翌朝、目を覚ましてリビングに行くとエイリがお茶を入れていた。
あれ。父さんも母さん、今日もいないのか。まだ朝だぞ。
「エイリ、父さんたちは?」
「今朝、騎士団の人が呼びに来て二人とも行ったよ」
「母さんも?」
「魔物対策のための部隊を編成するから、相談に乗ってほしいんだって」
「魔物……って、そんなにマズい状況なのか?」
「そういう訳じゃないと思うよ。ただここ何十年も魔物が活発に動くこともなかったから念のためじゃない? 人間達は魔王が復活する兆しかもしれないって騒いでるんだよ。そんな心配いらないのにね」
「お、おう」
ここにいるからな、魔王。
でも俺やエイリが魔王が復活する心配ないですよって言ったところで信用してもらえないだろうし、証拠を出せって言われても困るし。
「でも、無駄に騒がせておくのもなぁ……どうにか抑えられないかな」
「そうだね……適当な魔物を魔王の身代わりにして倒すとか?」
「でも魔王って勇者がいないと倒せないんだろ。昔、そんな理由で俺達が呼ばれたんじゃないか」
「そこが面倒なシステムだよね。僕も魔王になって分かったけど、魔王の力ってこの世界に存在する力全てが効かないんだ。だからこの世のものではない異世界人の力じゃないと倒せないってこと。だからこの世界で唯一僕のことを倒せるのは君だけなんだよ、白瀬」
「は?」
俺、もう生まれ変わったんだから異世界人じゃないだろ。
そう思って首を傾げると、エイリが小さく笑みを零した。
「確かに君の体はもうこの世界の人間の物だけど、魂は白瀬のままなんだよ。だから、君はこの世界の人間でもあるけど、異世界人でもある。とても貴重な存在なんだ」
「マジかよ」
「どうする? 元勇者様。僕のことを倒すかい?」
「アホ。どの世界に弟殺す兄貴がいるんだよ」
「ふふ。君ならそう言うと思ったよ」
何なの、コイツ。俺を試したいの。そんな悪趣味なこと聞くんじゃありません。
でも、身代わりか。コイツが力を使えば魔物の一匹や百匹くらい簡単に扱えるだろうけど、そうするとエイリの正体がバレるリスクもある。
難しいな。どうにか魔物を捕まえて、こっそり洗脳とか出来ればいいのに。
「身代わりにするにしても、魔王が弱いと人間達を騙せないよ」
「そうだよなぁ……なんか、みんなを助けようと考えてるのに、なんで魔王の身代わりなんか作ろうとしてんだろ。変なの」
「放っておけばいいのに。そのうち、魔物も大人しくなると思うよ」
「それなら、いいんだけど」
「だって魔王がここにいるんだよ? 最大の脅威がここでゆっくりお茶を飲んでるっていうのに、何に脅えるというの」
「それなんだよなぁ……」
無駄に気を張ってるのって、もしかして俺だけなんじゃないのか。
そう思うと、アホみたいだよな。
「…………ん?」
「どうしたの? 兄さん」
「なんか、こっちに来てないか?」
「そうだね」
「気付いてんじゃねーか」
「放っておいてもいいかなって」
本当にコイツはマイペースだな。
俺は気になって外に出てみた。なんか、結構大きな力がこっちに向かって来てる気がするんだよな。
周囲をキョロキョロしながら見回すけど、特に何もない。気のせいかな。それとも、この山に来てるわけじゃないのかな。
俺の探知能力も弱くなってんのかな。まぁいいや、さっさと朝飯食おう。
「貴様! 魔王の手の者か!」
頭上から声が聞こえて、俺は空へと視線を向けた。
そこにいたのは、日本だったら完全に警察に捕まりそうな際どい衣装を身に纏った天使だった。
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