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第17話 俺、露出は少ない方が好きなんです

 あれを服と呼んでもいいのだろうか。ただ布一枚を巻き付けてるだけじゃないのか。見えそうで見えない。アウト寄りのセーフって感じ。 「ん? ……この辺りから禍々しい気配を感じたので来てみたが……ただの人間しかいないのか?」 「……」 「おい、貴様。何か言わぬか」 「え? あ、ああ。なんか呆気にとられちゃった」  ついボーっとしちゃったけど、あれは天使か。背中に白い羽が生えてるし。  でもなんで急に天使が現れるんだ。もしかしてエイリの正体がもうバレたのかよ。早くない?  いや、俺のことを拘束するのに魔法使ったよな。あんなほんの少ししか使ってない魔力で勘付いたのかよ。天使怖いな。 「どうしたの、兄さん」 「げ、エイリ!」 「なんか気配を感じてきてみたんだけど……まさか天族がもう来るなんてね」 「おま、なんでのこのこ出てきてるんだよ」 「だって、兄さんが外に出るから」  なに、俺のせいなの。  魔王と天使なんて白と黒の超敵対関係じゃん。光と闇、陰と陽。どう転んでも敵にしかならない完璧な構図じゃないですか。 「あれ、よく見たらファニエルじゃん」 「え? ファニエル? それって俺に神の加護をくれた天使のこと?」 「そうだよ。覚えてない? あの放送禁止擦れ擦れの衣装」 「あー! そういえばいたかも! なんかもうギリギリすぎてエロさを感じなかったわ」 「兄さん、昔もそんなこと言ってたね」  俺は昔、勇者として城に呼ばれたときのことを思い出した。  あの時、魔王と戦うためにって神様の加護を貰ったんだけど、それを授けてくれたのがこの天使、ファニエルだった。  さすが天族。長生きだな。昔と全然変わってないじゃん。 「この私を無視して話を進めるとは何事ですか!」 「うるさいな。兄さんと話してるのに邪魔しないでよ、神の犬が。むしろ飛んでるから神に集ってるハエの方が良いかな」 「なっ! 人間のくせに主を愚弄する気か!」 「魔王も倒せないくせに偉そうに吠えないでよ。てゆうか、僕は神も天族も嫌いなんだよ。お前らが白瀬を勇者にしたくせに。そのせいで白瀬は死んだのに」 「え、俺?」  確かに俺を勇者に選んだのはこの世界の神様だけど、別に俺は神のせいで死んだとは思ってないし。  コイツ、神や天族に対してそんなことを思ってたのかよ。別に気しなくてもいいのに。 「偉そうに命令するだけの何の役にも立たない空の害虫が今更何の用? もう僕と兄さんの邪魔しないでよ」  あ、ヤバい。エイリが軽くキレてるぞ。そのせいで魔力が漏れてる。隠しきれてない。  これはもう、完全にバレた。ファニエルもコイツの正体に気付いて少しだけ距離を取った。 「…………まさか魔王が人間に化けているとは思いませんでした。ですが、この私が気付いたからには……」 「君達には何も出来ないの分かってるでしょ。だから異世界人を呼んで自分達の都合のいい駒にしてるくせに。てゆうか、君達にはもう勇者は呼べないよ」 「……何?」 「だってこの世界には理がある。勇者は一人しか呼べない。神の加護を与えた勇者が生きてる限り、次の勇者は呼べない。そうでないと」 「……だったら何だ」 「勇者なら死んでないよ。僕が転生させたから」  そう言ってエイリが俺の腕に抱き着いてきた。  ファニエルは俺の顔をジーっと睨みつけるように見て、何かに気付いたかのように目を大きく見開いた。 「ゆ、勇者シュンスケ……!? な、なんで……死んだのでは?」 「だから僕が転生させたんだよ。彼は勇者としての力を今は失っているけど、神の加護を受けた勇者の魂であることに変わりない。その魂がここにある限り、神は他の人間に加護を授けることは出来ない」 「……っく」  そうか、俺ってまだ神の加護を得た状態なんだ。全然知らなかった。だって生まれ変わってから魔物と戦うようなこともなかったから、気付かなかった。 「勇者! 何をしているのですか! 目の前に魔王がいるのに、なぜ戦わないのです!」 「え、だってこれ俺の弟だし」 「お、と!? いえ、コイツは間違いなく魔王です! 我々の敵です!」 「いや、まぁ確かに魔王なんだけどさ、別に敵じゃないし、全然放っておいても大丈夫だから」 「どうしたのですか勇者。もしかして魔王に洗脳でもされているのですか!? 魔王は存在するだけで悪なのです。今は大人しくてもいずれは人類の敵になります!」 「だからさぁ……エイリは魔王になっちゃったけど、それは理由があって……」 「もういいよ、兄さん」 「え? っどわぁ!!」  エイリが手を翳し、ファニエルに向かって魔法弾を撃った。  間一髪のところで避けたけど、あれは当たったら死んでたぞ。不意打ちで山一つ吹っ飛ばしそうな威力の魔法を撃つな。  てゆうか、お前が全力を出すとマズいんだって。ファニエルだけじゃなくて他の人たちにも気付かれるだろ。俺は慌ててエイリの両腕を掴んだ。 「ま、待て待て待て! 落ち着け、エイリ」 「だって兄さん、アイツは兄さんに戦えって言うんだよ。戦う気のない兄さんを無理やり……」 「俺はお前と戦う気もないし、あの変態の言うことを聞くつもりもないから!」 「変態!? 変態とは私のことを言っているのですか!?」 「だって格好がもう変態じゃん。露出狂じゃん」 「ろっ!? 何を言っているのですか。天使にとって神より与えられたこの完璧な肉体こそが完璧なる正装なのです。ですが人間の弱き眼にその輝きはあまりにも強烈すぎるのでこうして隠しているのです」 「隠しててそれかよ。じゃあなに、天界ってみんな全裸なの? うわ、引く引く。俺ドン引きです」 「兄さん。天族の言うことは聞き流した方が良いよ。頭おかしいから」 「い、いい加減にしなさい! ……仕方ない。勇者がそのような姿勢を貫くのであれば……」  完全に油断してた。だって天使が人間に手を出すとは思わないじゃん。  相手を舐めていたことに後悔したときにはもう、俺の腹には大きな穴が開いていた。 「貴方を殺して、新しい勇者を召喚します」

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