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第20話 俺が前世で勇者になった時の話
「……んっ?」
冷たい空気が肌に触れ、俺は目を開けた。
目を開けて、もう一度閉じた。それで、目を擦ってから、もう一度開けた。
いや、何も変わってない。
「よくぞ参られた、異世界の勇者よ」
「は?」
俺は腕の中で気を失ってる高藤の肩を支えながら、首を傾げた。
何、そのゲームの冒頭によくある台詞。
俺の目の前には、漫画やアニメで見るタイプの王様がいて、俺らの周りには沢山の兵士。
どうなってるんだ。俺、夢でも見てるのかな。でも高藤もここにいるし、温かさも重さも感じられる。
「混乱するのも無理はない、異世界の子よ。我らは魔王討伐のために汝の力をお借りしたい」
「え? 何、どういうこと? 全然分かんない。順を追って説明しようよ、大事でしょ、説明。何、魔王って。討伐? 俺に? なんで?」
本気で分からない。俺の身に何が起きてるんだ。
困惑していると、王様の隣にいた男の人が俺らの前にゆっくりと歩み寄った。
地面に座ったまままの俺と目線を合わせるために膝をついて、優しい笑みを浮かべてる。
「私は神官のマガリと申します。突然の召喚に応じていただきありがとうございます」
「いや……応じるも何も……」
俺らは車に轢かれそうになっただけで、特に何かした訳じゃないし。
言葉に詰まると、高藤が小さく唸り声をあげて目を覚ました。
「う、うん……ここ、は?」
「高藤! よかった、気が付いて。大丈夫か?」
「……えっと、どうなってるの?」
「俺にもよく分かってない。今、この人が説明してくれるみたいだ 」
高藤も状況についていけないのか、周りを見渡してる。
正直、ここに俺一人じゃなくて良かった。高藤がいなかったら、泣き叫んでたかもしれない。
「では、改めてお話します。この世界には魔王という悪の存在がおります。ソイツは数百年前に討伐されたのですが、その魂が再び甦って世界を滅ぼそうとしているのです」
「……はぁ」
「魂が蘇るってことは、消し去ることは出来ないってことですか?」
高藤が冷静に聞いた。何コイツ、もうこの状況に適応してるの?
頭良いやつはみんなこうなの?
「そうですね。今のところは、そう解釈されています。そして、その魔王はこの世界の力では傷一つ与えられないのです。神より力を与えられた天族ですら、魔王には太刀打ち出来ませんでした」
「ど、どういう、こと?」
「つまり、この世界とは異なる世界。貴方達のような異世界人の力でないと、魔王は倒せないのです。だから天族の力を借り、異世界の者を召喚し、その者に神の加護を与え、魔王と戦ってもらうことにしたのです」
「それ、僕達に何のメリットがあるんですか? 勝手に召喚されて魔王と戦えとかそちらの都合ですよね。僕達には関係ない話じゃないですか」
「ちょ、高藤!?」
神官さんに向かって正論を並べる高藤に、俺は少し怖くなった。
確かにお前の言う通りだよ。でもこの状況でよくそんな風に言えるな。怖いもの無しかよ。今、俺らの方がアウェイなんだぞ。
「た、確かに貴方の言う通りです。異世界人である貴方方には申し訳ないと思います。ですが、魔王を倒さない限り、召喚魔法陣は機能しないのです」
「はぁ!? なんだよ、それ! マジで勝手じゃん!」
思わず俺も口を出してしまった。
さすがにそれは酷いよ。それで俺らが死んだらどうしてくれるんだ。
「我々にはどうすることも出来ないのです。その代わり、天族より神の加護が与えられます。これにより貴方達には再生力と自己回復力、魔法の力が付与されます」
「なるほど。その神の加護とやらで、ちょっとやそっとじゃ死なないので、魔王を倒してきてくださいと」
「え、ええ……ただ、魔王のいる城まではここより最東端にあります。途中にあるダンジョンを超えていかないと辿り着くことは出来ません」
「……なんか、マジでゲームみたいな展開だな」
「その前に西にある天の塔に行って、月灯りの剣を取ってきてください。あれには魔を払う力があります」
「何それ。異世界人がその剣を持たないと倒せないってことなの?」
「いえ。ただ、今この世界で最も強い剣がそれなのです。かつての勇者がそれで魔王を倒してきました」
初っ端に高藤が正論を述べたせいか、王も周りの兵士も口を開かなくなった。
なんて言うか、物凄く居心地悪いな。
「……まぁ、いいや。分かりました、それをしないと帰れないって言うなら、やります」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「いいの? 白瀬」
「仕方ないだろ。俺だってやりたくはないけど、それ以外に方法がないみたいだし」
「そう。白瀬がそう決めたなら、僕も付いていくよ」
「ああ。二人で頑張ろう」
そうして俺は勇者として。高藤は俺のサポート魔術師として、魔王を倒す旅に出ることになった。
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