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第5話
日曜日にうちに来ないかと誘うと、有季は嬉しそうに電話で『ハイ』と返事をしてくれた。
欲を言えば土曜に会って翌朝までまったりとしたかった。しかしそれは贅沢というものだ。有季と二人で会えるだけで幸せなことなのだ。
しかも夜まで……。有季には聞いていないが、きっと期待してくれているんじゃないかと思う。だってこの前も、挿入より前まではもう済みなのだから……。
俺たちは日曜の昼前に待ち合わせをして、外で食事をすることにした。
急に夜に会ってセックスするんじゃまるでセフレみたいだからな。俺は身体だけが目当てなんじゃない。
ま、まあ、今日の一番の希望はそれだと認めないと嘘になるがな。
待ち合わせに来た有季は、Tシャツにジーンズの普通の格好だった。
こんなに普通の格好なのに可愛いなんて……神様は本当に人を選んで贔屓してるんじゃないかと思う。
「有季は何が食べたい?」と聞くと、
「玄さんの食べたい物なら、何でも」
と、はにかみながら微笑む有季だ。
でもそれだけじゃない。その後で、俺をこまねいて耳元に手を当てこっそり呟く。
「本当はね、一番食べたいのは……玄さん。」
「……え」
「うふふっ」
うふふっじゃないよ!
俺は有季よりも大分年上にも関わらず、全く弄ばれている。
これだから、初めて会った時に何か有季から危ない匂いがすると思ったのだ!
ぼやぼやしてはいられない。俺は力をつけるべく、食事は中華を選択した。
家の近くに、夜は高いが昼は安くて入りやすい、美味しい中華屋があるのだ。
入ると、なぜか有季が口を尖らせている。
どうしたんだ?
「……中華嫌い?」
「そうじゃないです」
尖らせたピンクの唇が、コップの水を含んで非常に美味しそうだ。
メニューを捲りながら不満そうに有季が呟く。
「さっきの、冗談じゃないですからね……」
「……」
「僕、さっきのも本気です」
……うぉー。
くそっ。このまま食事をせずに押し倒してしまいたい。
中華テーブルの円卓の上なんて、美味しすぎるシチュエーションだ……。
……なんて妄想している場合じゃない。
「有季はすごく美味しそうだよ。」
俺は精一杯の返しをした。有季は少し頬を赤らめ、「……ホント?」と聞いてくるのだが、俺は「ホントだ」と返して、店員にランチを頼む。
精を付けないといけないじゃないか。本番はこれからなのだ。
定食プラスラーメンくらいのボリューム満点のやつを頼まなければ……。
いやそれとも酢豚とかにするか?
そう思って俺は油淋鶏 定食を頼んだのだが、これが裏目に出た。
家に帰る頃には、胃がキリキリと痛みだしたのだ。
「う、痛たたた……」
「玄さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫…………じゃない。」
情けない話なのだが、思い返してみれば今週は仕事がとてもキツかった。
身体も使ったし、気候も蒸し暑い頃で思ったよりも俺の胃は弱っていたらしい。
油で揚げた鶏は受け付けなかった。
「ご、ごめん、有季……」
俺の機関銃は、肝心なところでエレクトしない。
「いいよ、玄さん。無理しないで」
有季は俺のためにドラッグストアで胃薬を買って来てくれて、それから帰るまで傍でテレビを見ていた。最後に、
今度ね。そう言って、有季は俺の頬っぺたにキスをして、帰って行った。
俺は自分の失敗を悔やまずにいられない。
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