5 / 17

第5話

 日曜日にうちに来ないかと誘うと、有季は嬉しそうに電話で『ハイ』と返事をしてくれた。    欲を言えば土曜に会って翌朝までまったりとしたかった。しかしそれは贅沢というものだ。有季と二人で会えるだけで幸せなことなのだ。  しかも夜まで……。有季には聞いていないが、きっと期待してくれているんじゃないかと思う。だってこの前も、挿入より前まではもう済みなのだから……。  俺たちは日曜の昼前に待ち合わせをして、外で食事をすることにした。  急に夜に会ってセックスするんじゃまるでセフレみたいだからな。俺は身体だけが目当てなんじゃない。  ま、まあ、今日の一番の希望はそれだと認めないと嘘になるがな。  待ち合わせに来た有季は、Tシャツにジーンズの普通の格好だった。  こんなに普通の格好なのに可愛いなんて……神様は本当に人を選んで贔屓してるんじゃないかと思う。 「有季は何が食べたい?」と聞くと、 「玄さんの食べたい物なら、何でも」  と、はにかみながら微笑む有季だ。  でもそれだけじゃない。その後で、俺をこまねいて耳元に手を当てこっそり呟く。 「本当はね、一番食べたいのは……玄さん。」 「……え」 「うふふっ」  うふふっじゃないよ!  俺は有季よりも大分年上にも関わらず、全く弄ばれている。  これだから、初めて会った時に何か有季から危ない匂いがすると思ったのだ!  ぼやぼやしてはいられない。俺は力をつけるべく、食事は中華を選択した。  家の近くに、夜は高いが昼は安くて入りやすい、美味しい中華屋があるのだ。  入ると、なぜか有季が口を尖らせている。    どうしたんだ? 「……中華嫌い?」 「そうじゃないです」  尖らせたピンクの唇が、コップの水を含んで非常に美味しそうだ。  メニューを捲りながら不満そうに有季が呟く。 「さっきの、冗談じゃないですからね……」 「……」 「僕、さっきのも本気です」  ……うぉー。  くそっ。このまま食事をせずに押し倒してしまいたい。  中華テーブルの円卓の上なんて、美味しすぎるシチュエーションだ……。  ……なんて妄想している場合じゃない。 「有季はすごく美味しそうだよ。」  俺は精一杯の返しをした。有季は少し頬を赤らめ、「……ホント?」と聞いてくるのだが、俺は「ホントだ」と返して、店員にランチを頼む。  精を付けないといけないじゃないか。本番はこれからなのだ。  定食プラスラーメンくらいのボリューム満点のやつを頼まなければ……。  いやそれとも酢豚とかにするか?  そう思って俺は油淋鶏(ユーリンチー)定食を頼んだのだが、これが裏目に出た。    家に帰る頃には、胃がキリキリと痛みだしたのだ。 「う、痛たたた……」 「玄さん、大丈夫?」 「だ、大丈夫…………じゃない。」    情けない話なのだが、思い返してみれば今週は仕事がとてもキツかった。  身体も使ったし、気候も蒸し暑い頃で思ったよりも俺の胃は弱っていたらしい。  油で揚げた鶏は受け付けなかった。 「ご、ごめん、有季……」  俺の機関銃は、肝心なところでエレクトしない。 「いいよ、玄さん。無理しないで」  有季は俺のためにドラッグストアで胃薬を買って来てくれて、それから帰るまで傍でテレビを見ていた。最後に、  今度ね。そう言って、有季は俺の頬っぺたにキスをして、帰って行った。    俺は自分の失敗を悔やまずにいられない。

ともだちにシェアしよう!