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第6話

「ただいまー」  そうこうしているうちに、有玄が俺の姉と帰宅した。 「パパぁ」  俺の名を嬉しそうに呼ぶ有玄の頭を撫でる。有玄はにこにこと俺を見て笑う。 「どうよ、少しはゆっくりできた?」 「あー……うんまあね……」 「何よ、調子悪そうね」  リビングに一台だけある、低いテーブルの上の胃薬を見ながら姉が言った。 「食べすぎたの?」 「あー……みたいなもん。ちょっと弱ってんの」 「彼女に愛想つかされなかった?」  姉の台詞にぐっと詰まる。 「彼女出来たなんて言ったっけ……」 「言ってないけど、出来たんでしょ?」  わかりやすいもんねーあんたねー、と姉は言う。姉はどうやら弟のことは何でもお見通しのようだ。  俺はソファでもぞもぞと肌掛けに包まりながら言う。 「でも仕事でちょっと疲れてたみたいでさ……。胃が痛くなっちった。カノジョはさ、帰っちゃった」 「そぉ……」  姉も俺に同情したようだ。俺の前では、息子の有玄がキャッキャと楽しそうにしている。  今日はどうやらモールで玩具を買ってもらったようだった。あと水着も。 「もうすぐ夏でしょ? プールも入るわよ」 「そうね……」  頭を撫でると有玄は嬉しそうだ。やはり父親に会えると嬉しいのだろうか。  俺の胸が少しばかりチクンと痛くなったり、ホッとしたりする。  俺の複雑な顔を見た姉が言う。 「来週もさ、私有玄面倒見てあげるよ。お母さんも有玄に会いたいだろうしさ。だから彼女と会いなよ」 「……え、ホント?」 「うん。せっかく何年ぶりに出来た彼女、こんなに早くダメになったらショックでかいでしょ」  そりゃきっと、ダメージ半端ない。有季の顔を思い浮かべただけで胸が痛いぜ。  俺は姉に礼を言って、ありがたく申し出を受け入れることにした。  でも何だか俺の胸はスッキリしないんだ。  まだ、昼の鶏が悪さをしているのだろうか。    俺はどこかが腑に落ちないながらも、翌日再び有季に連絡を取った。  有季はすぐに電話に出てくれて、『ハイ』と可愛らしい声で返事をしてくれる。 『玄寿さん、具合はもう大丈夫ですか』 「うん、大丈夫。昨日は本当にごめんね」  エッチはできないし、薬は買って来てもらうし。看病まがいのことはさせるし。  最悪のデートだよ。 『大丈夫です』  有季は、嫌な顔は全く見せずに返事をしてくれる。  だから俺も、もう一度彼を誘ってみることにした。 「埋め合わせじゃないんだけど……今週も、またうちに来ないかな……。  今度は、お昼は中華食べに行かないから」 『はい! ……じゃあ今度はお昼、どうしますか』 「何か、サッパリした物食べよう……」 『うふふ。じゃあ僕良かったら作りますけど。どうですか?』  言われてみれば、有季は調理師の免許を取ろうとしているくらいの料理上手なのだった。 「え……いいのかな。食べたいな……」 『じゃあそうしましょう。僕、昼前に玄寿さんのおうちに行きますから』  それから。  今度は絶対にいいデートにしたいと、俺は決意する。

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