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第10話
それからの俺の抜け殻っぷりたるや半端ない。
「店長、元気ないですね」
「あ、そ、そうお……そんなことないけど」
「その作業さっきからもう1時間やってますけど」
俺は普通数十分で終わる在庫の検品を、もう1時間もやっていたのだった……。
「あっご、ごめんね。そうだ俺さっきの片付けするわ……」
「もう私やりました。あれ午前中の話ですよ」
「……ごっごめんね」
仕事の能率だってガタ落ちである。
それでも俺は週5で仕事に行き、有玄と二人でご飯を食べて風呂に入って――。
以前の生活に戻ったのだと思う。
そのくせ、俺自身は全く以前の俺に戻れていない。
カラ元気にも限界があるというものである。
年を取ると立ち直りが遅くて困る。なんてことを思っていると、姉ちゃんから電話をもらったのだった。
「有玄はよくなった?」
「うん、すっかり」
「あのさ、例の彼女とはどうなったの」
今更だけど、カノジョじゃなくて男の子だったんだけど……。
その面影を思い出そうとするとメンタルにキツいものがあるので、俺はなるべく思い出さないようにして答えるのだ。
「うん、多分、ふられたかな……」
「そう……」
いつもは冷たく突っ込みを入れて来る姉も、その返事だけで終わってしまった。
俺のショック加減を慮 ったらしい。
なんせマンションで有季に帰られてからの俺は、ショックでろくに記憶もない。多分姉とろくに口も利かなかったんじゃないかと思う。
「じゃあまたね……元気出しなさいよ……」
姉も見かねて電話を切った。かける言葉もないとゆうことだな。
俺はもう姉を冷淡な女だとは思わない。今はその淡白さが有難いとさえ感じている。
俺は今日もとぼとぼと家に帰り、食事の支度をしてあとはゆるく過ごそうと思っていた。
何となく、暮らしにハリもない。
おかしい。恋愛にうつつを抜かさなくなった俺は、有玄の子育てに集中できるはずじゃなかったのか。家事と仕事と子育て、その他には何もないのだから。
それでもそんなことはなかった。有季を知ってしまった俺は、それ以前の暮らしに戻るのがこんなにも辛いとは。
有季が、俺の生活の一部になりつつあったということなんだ。
別れてからそれを知るなんて……俺は全くの馬鹿である。
悶々と思いながら有玄を迎えに行って、うちに帰ろうとしたときだ。
有玄が、家の近くで立ち止まって言った。
「あ、おにーちゃん」
お兄ちゃん?
まさか、と思ったけれど、夕暮れ時に道端に立っていたのは有季の姿で。
壁に寄りかかるようにして、エコバッグを持ち、どうやら俺たちを待っていたらしかった。
有玄が近寄ると、有季がニコッと笑って声を掛けた。
「おかえり、有玄くん」
「おにーちゃんどうしたの」
「今日さ、おにーちゃんお父さんとお話があるから、家に行ってもいいかなあ」
有玄はよく理解していないが、有季のことを好きだから、「うんいいよー」と言っている。
俺はごくりと唾を飲み込んだ。有季は何を話すというのだろう。
有季は有玄と手をつなぎ、俺たちの家に入って行った。本当は俺が有季と手を繋ぎたい。
「僕、今日は二人にご飯を作ってあげたくって」
そう言って、有季は俺に顔を向けて来た。
「今日はご飯何にする予定でした?」
「えっと……いや、特には……野菜炒めとか……」
「じゃあ冷蔵庫の様子を見て、僕が作っていいですか」
「あ、い、いいです」
「良かった」
有玄と俺が風呂に入っているうちに、出来上っていたのは美味しそうなハンバーグだった。
勿論、有玄は大喜びで食べた。
それから、そわそわして落ち着かない俺が、興奮気味の有玄を何とか寝付かせて……リビングに戻って来たのが、8時過ぎ。
有季はテレビを点けて待っていた。
そこに有季がいてくれて俺はホッとしていた。
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