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第11話
有季は俺を待っていたと言うように口を開いた。
「玄寿さん。この前僕、勝手に帰ってしまいました」
「は、はいっ」
はっきりとした口調の有季に俺はビビり気味だ。
美少年が怒るとむしろ綺麗に見えるなあ……などと頭の片隅で思っているのはふざけてると思われるかもしれないが、少なくとも俺は有季に会えてしかも有季の作ったご飯を食べ、確実にだいぶ元気になっていたのである。
二人でいるとドキドキする。
そんな俺の前で有季は点けっぱなしのテレビを見ているふりをしながら、続ける。
「それは怒ってたからなんですけど……何で僕が怒ってたか解りますか」
「……俺が、二度もデートを台無しにしたから」
「違う。そこ、本当に違うんですよ」
……えー。
どこが違うというのだ。俺が有季とまともにデートが(つまりセックスが)出来ないから、怒ったのではないか。
俺が全く納得のいかない顔をしていると、有季が言う。
「一度目は、僕のこと全く頼ろうとしないから……僕、薬屋さんに行くのだって全然構わないし、むしろ玄寿さんのためになるなら尽くしたいし、お仕事を頑張ってて弱っている玄寿さんもすき。」
……えー。
俺の理解が追いついていないと、有季は続ける。
「それから二度目は、僕のこと、あっちの部屋へ押し込んだこと」
「……え」
「僕のことお姉さんに会わせない気マンマンだったでしょ。それって何なんですか。やっぱり僕のことただの火遊びなんですか」
それは、有季が気まずいかと思ったのだ。
男同士だし……と俺は思ったのだが、それは理由にならないのだろうか。
俺は頭の中でそう思ったのだが、そんな俺の考えと180度違う見解を有季は言う。
「僕のことお姉さんに紹介しないで隠そうとしたの、僕すごくショックで嫌でした。だから帰りました。玄寿さん、その方がいいのかと思って」
「……」
「……僕、ご飯だって作るの玄寿さんだけにじゃなくて、有玄くんにも食べさせてあげたいなって思ってるんです」
「……えー……」
「できたら、お姉さんにも紹介してもらえたらいいなって、思ってます……」
テレビの内容など本当は見ていないだろうに、俺から顔をそむけたままそう言って、目の前の有季は今更もじもじと照れていた。
可愛い。
俺の喉がごくりと鳴る。
有季がそんな風に思っていたなんて、思わなかった。てっきり俺は、若い子と付き合うのに引け目ばかり感じていて……。
「有季、ごめん。……俺が悪かった」
「玄寿さん」
俺が頭を下げると、やっと有季が俺を見てくれた。
頬に赤みが差して、俺は有季に触れたいなあと思う。
しかしそれでは、同じことの繰り返しなのだ。
「有季……」
「玄寿さん」
どうしたらいいんだろう。この触れたくてじりじりとした指を、有季に触れたら……俺はきっと、今度こそ止まれないかもしれない。
でも、部屋の奥には有玄が。
その状況は有季も解っている。きっと、俺が言えば我慢するんだろう。
「玄寿さん……解ってます。有玄くんがいるから……玄寿さんはパパでいなくちゃならないんですよね」
俺がじりじりと考えあぐねていると、聞き分けのよい有季がそう語り出した。
「僕、パパの玄寿さんもすき。玄寿さんが我慢してるの……解ってます。だから……僕も我慢しま……」
そう言って、有季はTシャツの胸をぎゅっと掴んだ。
違うんだ、そうじゃない。
君が我慢できても、俺のそこが我慢できない。
最後の言葉を呟きかけた、有季の可愛い唇が閉じようとしたその時。
タイミングよく運命のベルが鳴ったのである。
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