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第12話
俺と有季は走っている。
俺は有季の手を取り、有季は俺に引っ張られるようにして、夜の街中を走っている。
「はあ、はあ……げ、玄……さんっ待っ……」
「有季……あそこにしよっ」
俺は、家から1キロくらい離れたところにある、さびれたラブホテルを目指していた。
ひと昔もふた昔も前の、ここら辺が住宅街ではなく歓楽街だった頃の名残りの、ピンクや紫色の看板は退色して何ともいえない色になっている。
初め俺はラブホに入るのに抵抗があった。それは、有季が男の子だからだ。男の子だとあまり無理をするとベッドも汚れるし有季にも負担がかかる。
初めは家で……泊まりで……と思っていた。だがそれは理想だ。
世の中は合理的にいかないことだってあるのだ。昔、そう言ったのは俺だ。
恋とは合理的にするものではなかったのだ。
俺は目覚めた。
ラブホの受付に入ると、確かお婆ちゃんだった管理人の気配を薄い壁の奥に感じながら、俺は壁の自販機に向かって希望の部屋のボタンを押す。
どこだっていいのだ。有季が嫌じゃないくらいに小ぎれいで、有季がビビらないくらいに控え目で、あとはベッドと風呂場さえあれば。
「はっ、はっ……、げ、玄寿さん……ここ……」
「有季、この部屋でいっかな!」
そう俺が指さしたのは一覧の真ん中くらいにあった、標準の、真ん中くらいの料金の部屋である。
「え……えっと……、あの……僕わかんな……けど、えっと、はい、そこで」
いいです。有季がこくりと頷くと、俺は力強く頷いてボタンを押した。
部屋は満室表示に切り替わった。
「よしっ行こう」
「げ、玄寿さん……僕あの、息切れが」
安普請 のエレベータがチンと鳴り、3階に着いた。
有季を連れて目的の部屋まで行き、部屋に入る。ガチャンとドアが閉まった。
「はあ、はあ……玄寿さん」
「有季、もう部屋は出るまで開かないよ」
何だこの台詞は。俺は昔のメロドラマの、不倫相手の絶倫男のような台詞を吐 いた。
それでも俺の可愛い子兎ちゃんは、興奮冷めやらぬ……いや、走った動悸がまだ収まらぬ赤い顔で、「はい」と頷いてくれるのだ。
「玄寿さん」
「有季……」
「玄寿さん……すき。」
ああー……。
久しぶりにキスをする有季の唇は美味しすぎる。
唇をいやらしく舐めて濡らしてやると、「あ……」と声を漏らす有季の唇が開いて、そこから俺のまたいやらしい舌が、有季の口の中を侵 すのだ。
有季の舌を探す。どこだ。俺の可愛い舌は。いた。柔らかくって、温かくって、エロい舌が。
吸い上げると俺の口の中に入ってくる。
「んん」
有季は可愛いが、誘うととてつもなくエロくなるのだ。それは前にも実証済みだからな。
おっと……そんなことを考えていると、俺の機関銃がもう待てがきかなくなってしまう。
俺が何とか自制心に耐えていると、目がトロンとした有季が、ほんの数ミリの至近距離で、囁くのだ。
「玄寿さん……、僕…………エロい玄寿さんもすき。」
くっそう……こいつをどうしたらいいのだ。
機関銃はもう発射寸前である。
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