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第3話 夏向

ももちゃんとオレは同じ年の1月と12月に生まれた。 同じ年に生まれたのに学年は1つ上のももちゃんは、 オレよりいつだって1年早く学校を卒業してしまう。 物心つく前からいつだってももちゃんの背中を追いかけていたオレにとって、 同じ場所に一緒に通えなくなってしまうその1年間の壁が、 本当に大きな試練になっていた。 はじめては幼稚園のももちゃんの卒園。 その日、オレも一緒に幼稚園をやめて小学生になると泣きわめいて、 親だけでなく、ももちゃんのご両親もももちゃん自身をも困らせた。 誕生日を変えてくれと叫んでいたのを覚えてる。 小学、中学の時はさすがに泣いてわめくことはなかったけれど、 どうして同じ年に生まれているのにももちゃんとは学年が違うのか、 どうしようもないことにやけに不機嫌になって 本当はめでたい祝いのその席で、 オレはももちゃんに心からおめでとうを言えなかった。 小学生のその時は、 さみしくて家でこっそり布団をかぶって泣いていた。 中学生のその時は、 涙はでなかったけどやっぱり、こっそり布団をかぶってた。 別れはいつだって寒い季節だ。 オレの誕生日が来て、ももちゃんの誕生日が来ると、 同じ場所に通えない、別れの1年がやって来る。 そして今年も。 この4月からの見慣れた大学のキャンパスに ももちゃんの姿はなくなってしまっていて、 オレは独り、大学に通わなければならなくなった。 ぶっちゃけ、二十歳を超えてもなお例外なく、 今日も寂しさが襲っている。 たとえ同じ教室で授業を受けるわけでなくても、 ももちゃんがいると思って一日を過ごすのと ももちゃんがいないことをわかって一日を過ごすのとでは、 目の前の景色がまったく違うように見えるのだ。 もちろん、今日のようにこうして学校以外で ももちゃんに会うことは出来る。 それでも・・・寂しいと思う。 自分の知らないももちゃんが増えていくこと。 ももちゃんのそばに居られない、自分が増えていくことが。 大学に入ってすぐ、 ももちゃんはモデルのバイトを始めた。 スカウトではじめたバイトだったけれど、 ももちゃんのあのルックスとあの笑顔と さらにはきっと あの人当たりの良さや礼儀正しさなんかもあって、 そうなるべくあっという間に人気者になっていった。 それから雑誌の表紙をかざるまでにさほど時間はかからなかったし、 街を歩けば騒がれることも多くなっていった。 オレは高校卒業と同時に 待ってましたと言わんばかり撮影所についていき、 オレもモデルのバイトをやりたいと周りの人に言いまくった結果、 奇跡的にそこで モデルのバイトをやらせてもらうことが出来ることになった。 もちろん、モデルに興味があったわけじゃない。 ただももちゃんと一緒にいたかっただけだ。 気づけばどんどん人気モデルになっていったももちゃんは、 そのままモデルをやっていくことだってもちろんできたと思う。 というか、オレはももちゃんがその道を選ぶのだと思っていた。 それが・・・ 【花屋やろーと思う】 ももちゃんから聞いたときの衝撃を忘れられない。 それは半年前の夏。 オレはももちゃんから直接そう言われて、 心の底から衝撃を受けた。 だってそれはあまりにも「予想外」だったから。

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