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第5話 夏向

いらっしゃいませとまたももちゃんの声がして、 ハッとして無意識に顔を上げれば店内にはまた、 OLさんぽい女性のお客さんが二人、入って来ていた。 ももちゃんのお店のあるこの場所は、 商売をするには立地はあまりいいほうじゃないと聞いた。 たしかに大通りからひとつ路地にはいっただけなのに、 ここは本当に人通りが少なくなる。 表通り沿いだったらきっともっとお客さんが入るのかもしれない。 でもももちゃんはちゃんとこだわってこの場所を選んだのだと聞いている。 ・・・それも、ももちゃん本人からは聞いてないのだけれど・・・ そこまでにぎわうことが無くてもいいから、 必要なヒトに、必要な花が届けられればいいのだと言っていたって。 そうして、 にもかかわらずこの店にはいつ来てもお客さんがいる。 中でもフラワーアレンジメントはすごく好評で、 すでに常連さんがいることも知っている。 10月オープンだったのがラッキーだったんだよと、 ももちゃんは言っていた。 ハロウィンから続く、 イベントごとが多い年末年始前にオープンできたことが、 お店を早く軌道に乗せることに繋がったんだって。 でももちろんそれだけじゃないことくらい、 頭の悪いオレにだってわかってる。 目の前に広がる、広すぎないこのお店の全体の空気感。 季節ごと、色とりどりの花たちが店内全体にちりばめられて、 ときおりおいてあるアレンジされた花束たちと小さな小物たちや、 ガラスケースの大きさやカタチはもちろん すべてのただずまいが ももちゃんを通じて一つの調和を生み出している。 入り口は開放感があって誰でも入りやすく、 入ったあとにはどこかあったかい居心地の良さも感じる。 ハーブティや食用花も扱っており、 なにより、主役の花たちが生き生きしてる。 ・・・って、この間、雑誌の特集に書いてあった。 つまりはももちゃんの気持ち。 ももちゃんの熱意とか愛とかそういうモノたちが、 伝えたいナニカがきっと、 お客さんたちにはもちろんのこと、 置かれた花たちにまでも伝わっているのだと思う。 花なんて買ったことがない自分にとって、 日常、こんなに花を買う人がいるってことに驚いて、 そして・・・ この花屋とももちゃんという存在は この先もっともっと有名になって行くんだろうなと勝手に思う。 ももちゃんの成功は喜びたい。 けれど・・・ お客さんと笑っているももちゃんを見て、 無意識に小さなため息をつく。 どうして花屋なのか、その理由はいまも知らない。 たいして理由なんてないのかもしれない。 ・・・わからない。 ももちゃんのことをいつだって一番近くで見ていたつもりだったけど、 そうじゃなかった。 実際は、知らないももちゃんばかりだったのだ。

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