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第7話 夏向
【椿とはすげー気が合う。一緒にいて楽】
ももちゃんはそう言ってどこか照れたようにはにかんで、
すると椿さんもすごく嬉しそうにしながら
【俺もたけちゃんは特別好き】
なんて言ってももちゃんを見つめた。
おしゃれなカフェの奥の席で、
オレの目の前で二人が見つめ合って笑ってたのをいまだによく覚えてる。
それはきっと「親友」という意味だったとしても、
オレはずいぶんと複雑な気持ちになった。
だって、椿さんはももちゃんの特別なのだと知ってしまったから。
おまけに椿さんは「好き」だなんて言葉を
いとも簡単にももちゃんに言っちゃうから。
そのあと、オレも同じ事務所でバイトが出来るようになって、
椿さんとはちょっとは仲良くなれたと思う。
でもももちゃんと椿さんとの間には、
いまだになんだか特別、仲良しの空気が流れる。
オレとは違う、特別な空気が。
大学は違っても仲が良かった二人。
椿さんはももちゃんが花屋をやろうとしてたことを、
出会ってすぐの大学1年のころからもう知っていたらしい。
そうして大学3年からのももちゃんの就活中には、
植物園なんかにも一緒に行ったこともあったそうだ。
花や経営については、
元大人気モデルでいまはレストランを経営してる羚央 くんに相談したりして、
羚央 くんともよく一緒にいたとも聞いている。
確かに。
オレは何もできない。
花のことも経営のことも何も知らない。
頼りになんて微塵にもならない。
だからももちゃんの相談相手に選ばれなかったとしても仕方がないだろう。
そうわかっていても、それでもやっぱり哀しかった。
ちょっとは誘って欲しかったし、なにより・・・
教えて欲しかった。
ももちゃんの未来を。
少しは一緒に、これからももちゃんがカタチにしていこうとするその景色を、
一緒に見たかった。
椿さんは、オレよりももちゃんとの付き合いが比較にならないくらい短いのに、
オレの知らないももちゃんをよく知っているヒト。
椿さんのことはぜんぜん嫌いじゃない。
でも、そういう現実は確実に、自分の気分を落ち込ませた。
「何時終わり?」
「あと10分だな」
「そっか・・」
椿さんはちらっとこちらを見てまた、ももちゃんを見る。
「メシでもどうかなって思ったんだけど」
「あ~・・・」
ももちゃんは言葉を濁すと、
今度は二人してこちらを見た。
「夏向 ちゃん、3人でもいいかな?」
「それはもちろん!でも・・オレがいてもいいの?」
ももちゃんと二人きりになれなくても
椿さんと一緒でもきっと楽しいことをわかっていたから
それはなにも問題はない。
なにより椿さんがこんな風に誰かをご飯に誘うのが
ものすごく稀な事だと知っている。
きっと、ももちゃんと話したいことがあるのだ。
それなのに、オレを邪険にしないでいてくれることのほうに
むしろ嬉しくなった。
「ぜんぜん。夏向 ちゃん、ありがと」
ふわっと笑うとまた、
店内にいた女性のお客さんが小さな悲鳴をあげた。
彼女たちはきっと、椿さんを知っているのだ。
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