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第10話 桃ちゃん

俺と夏向(かなた)はもう常連の域をこえる頻度で ・・・それはまるでここのスタッフなのかなってくらいに・・・ ここには通わせてもらっている。 蓮水は何も言わないけれど、予約が取れないと有名なこの店で、 いつもその個室を俺たちのために空けてくれているようだった。 「なに、椿さんも今日はもう終わり?」 「ああ。羚央(れお)も一緒にどう?」 椿がそう言って誘えば、 「おっいいの?じゃあシャンパン入れてやんよ」 蓮水はさっきの笑顔とは違う、どこか年相応の可愛らしい笑顔を見せた。 蓮水は2年前に、そして俺は去年の夏にモデルを辞めているが、 当時この4人の中で群を抜いて一番人気があったのが蓮水だ。 嫌味でないひときわ派手なその顔立ちと振舞いは、 どこに行っても目立つし注目を浴びる。 おまけにその派手さに負けない大人びた考え方を持っていて、 当時から俺より年下だとは思えないくらいにしっかり者だった。 2年前、蓮水はずっとやりたかったんだというレストランをオープンさせると、 『花と華』というコンセプトで立ち上げたそのレストランは たちまち女性客を中心に話題になった。 もちろん、蓮水という存在自体が有名だったこともあるだろう。 1号店はどこか和風でモダンな、そして、 今年オープンさせたこの2号店は洋風の明るいテイストで店づくりがされており、 コンセプトは同じでも店の雰囲気がずいぶんと違っていて、 この2店舗目もしょっちゅう雑誌やテレビで取材されている。 料理のほとんどに食べられる花があしらってあったり、 デザートに使用しているはちみつが特別なものであること、また、 料理のカタチ自体に花をモチーフとした造形があしらってあるなど、 美味しさはもちろん食材の品質や見た目にもこだわった、 華やかな料理が有名だ。 そして1号店も2号店もテイストは違えど、 店内にはいたるところに花が生けてある。 「あ、この雑誌見たよ」 夏向(かなた)が見つけたのは いつもの個室の飾り棚に置いてあるいくつかの雑誌の中にあった、 スーツ姿の蓮水が表紙に映っている雑誌だった。 蓮水はモデルはすでに辞めているものの、 元モデルで腕のいい若手経営者としていまだ雑誌やテレビなんかにもよく出ていて、 その有名っぷりは以前にもまして健在なのだった。 モデル時代、この4人で飲んだことはしょっちゅうあった。 そして、当時からなぜか乾杯の音頭を一番年下の蓮水がとる。 それは突然はじまった今夜の軽い食事会でも同じで、 蓮水が用意してくれたスパークリングワインの入ったグラスを 蓮水の音頭で4人、カチャリと合わせた。 飲み会は嫌いじゃない。 むしろ好きなほうだ。 そしてそれは夏向(かなた)も同じで、 チラリと隣を見ればとても楽しそうにしている。 そんな夏向(かなた)を見てなんとなくホッとした。

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