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第11話 桃ちゃん

いつもはこういう場にあまり参加しないレアキャラの椿がいるせいか、 なんだか全員のテンションが上がっているような気がした。 腹を割って話せる仲間との飲みは純粋に楽しい。 蓮水と飲むのも久しぶりだった。 この店には本当に頻繁に来ているけど、 基本、働いてる最中の蓮水とはあまり話せる時間はない。 「それにしてもこっちもすげー繁盛してんな」 「まぁラッキーだな」 ラッキーだけでここまで来れないことくらい、 俺だってわかっている。 見た目が華やかでどこか自信に満ち溢れた気配が漂う蓮水は、 けれどもこういうところで嫌味なく引くこともできるのだ。 ただモノじゃないといつも思う。 年齢は俺の方が上でも、 モデル歴も経営者という部分でも蓮水のほうが大先輩だ。 だから自分が花屋をオープンするにあたり、 経営についてはもちろん、 財務や花の卸しやフラワーアレンジメントのことなんかも、 人の紹介やらなんやらでいろいろ手助けしてもらった。 「このアレンジ好評だよ」 すると、向かいに座っていた蓮水がそう言って、 携帯の画面を見せる。 そこにはさっきこのレストランのエントランスにあった、 大きな花瓶に生けられた花の画像が上がっている、 ネット記事のニュースがあった。 俺はホッとして、同時にどこか緊張もした。 実はこの店舗の花のアレンジを、今月からすべて俺が手掛けている。 さっき通った廊下で女の子が写真を撮っていたあの花を生けたのも自分だった。 スクロールすればその花と一緒に映っているのは蓮水だったが、 俺の名前も出ている。 「え?これ、ももちゃんがやったの?」 横から携帯を覗いて夏向(かなた)が言った。 「そ。良い感じでしょ」 返事をしたのは蓮水だった。 「じゃあこの部屋のお花も?」 「そう。今月から専属でやってもらってんの」 ぐるりと部屋を見渡すようにする夏向(かなた)に、 蓮水はやっぱりウィンクをしそうな勢いでそう言った。 一瞬、夏向(かなた)の表情が曇ったのがわかる。 今月からこの2号店の花のアレンジの全てを自分が手掛けるようになったことを、 俺は夏向(かなた)には言ってはいかなったことを少しだけ気にした。 仕事の話しを、俺は出来るだけ夏向(かなた)にはしないようにしている。 通常、就職組ならすでに内定をもらっているこの時期に、 コイツはまだ、何も決まってはいない。 それは少し・・・いや、かなり。 心配ではあった。 もしかしなくてもそれは、少なからず自分のせいでもあるからだ。 小さなころからずっと、コイツは俺の後ろを追っかけて、 やることなすこと俺の真似ばかりをしてきた。 それを疎ましく思ったことは一度だってない。 けれど、さすがに仕事はやりたいことをするべきだし、 そろそろお互い、自立していかなきゃいけない。 これだけ長い付き合いの・・・まるで弟のようなコイツの未来を、 俺だって当然、気にはなる。 でもだからといって、自分が口出しをするつもりはない。 夏向(かなた)の人生は夏向(かなた)のものだ。 俺にできることは信じて見守ることくらいだった。

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