14 / 26

第13話 桃ちゃん

どこか中性的な見た目とは裏腹に俺より酒が強い夏向(かなた)は、 グラスを合わせた宣言通り、いつもよりずいぶんピッチが速かった。 「夏向(かなた)ももう4年だね。進路決めたの?」 蓮水が話しかければ、 笑っていた夏向(かなた)は唇をキュッとして視線が泳ぐ。 「ん~・・・どうしようかなって思ってるところ」 そうして、下手に嘘を言わない夏向(かなた)に 俺はどこかホッともする。 「モデル続けないの?」 「まだわかんない」 「そっか」 一瞬だけ。 4人は4人とも無口になる。 他人の未来を、俺たちは誰も、左右することは出来ないから。 「・・・ねぇ・・・たとえばももちゃんの花屋手伝うのは?」 すると、一瞬だったその沈黙を破ったのは夏向(かなた)自身だった。 チラリとこちらを覗くように見つめる視線は、 いままでにも何度か見てきた。 同じ塾、同じ部活、同じ学校・・・ 俺の真似をするそのたびに 俺はコイツの頭をクシャリとやって笑ってきたけれど、 今回の件はそれとはさすがに同じようには出来ない。 「なに言ってんだよ。お前接客なんてできねーだろ」 笑いながら努めて明るく・・・けれども本心を言った。 あくまでも俺の価値観ではあったが、 コイツがこれまで「真似をしてきたモノたち」と、 いま話題に出ている仕事ってのは、さすがに同じようには考えられないのだ。 「なんだよ・・接客ぐらいできるよ」 「「あ?お前、、接客業なめんなよ?」」 すると、オレとは蓮水の声が重なって、 ・・・おまけに蓮水は一瞬、明らかに素が見えたこともあって・・・ 思わず全員で笑った。 「でも・・でもさ。もしもやりたいって言ったら?」 めずらしく夏向(かなた)は食い下がる。 酒がまわってますってわかりにくいその瞳は、 けれども俺にとってはよく知っている目だった。 「ホントに一緒にやりたいって言ったら?ダメ?」 「ダメもなにも、お前には無理だろ」 「なんで?ムリじゃないよ」 少しムキになって口を尖らせる夏向(かなた)に、 俺は何と言ったらいいのかを少し迷う。 きっとコイツは本気で俺と花屋がやりたいわけじゃないだろう。 ただ、決められないだけなのだ。 「お前、花なんて興味ないだろ」 「・・これから興味持つし」 「バカ言ってんじゃねーよ」 やっぱり笑って言いながら、夏向(かなた)の頭をクシャリとした。 「まぁでも。夏向(かなた)がいたら尊流さんのトコは儲かるかもね」 するとどこか茶化すように蓮水が言って 「たけちゃんだけでなく夏向(かなた)ちゃんまでいたら、 もうモデル事務所みたいな花屋だね」 めずらしく、椿までそんなことを言う。 「アホなこと言ってんな」 少しだけ重くなったこの場の空気が、けれども柔らかく揺れていた。 夏向(かなた)は黙ってしまったけれど、きっとコイツもわかっている。 この先の未来は、自分が決めるしかないのだ。 ハタチそこそこなんてぶっちゃけたいしてオトナじゃない。 それなのに、自分の将来を決めなければならないなんて なかなか難しいことではある。 ・・・それでも。 「お前の道はお前がちゃんと見つけられるさ」 声をかけても、夏向(かなた)はしばらく黙ったままだった。

ともだちにシェアしよう!