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第14話 桃ちゃん
気心知れた仲間が集まってしまえば、
その後の時間はあっという間に過ぎていく。
個室の壁の洒落た時計を見れば、
もうあと数分で明日になる時間になっていた。
「今日はなんか悪いことしちゃったかな~」
夏向 の向かいに座っていた椿がつぶやくように言って、
手元のグラスをゆらりとする。
「ん?なにが?」
「夏向 ちゃん。あんな酔っぱらっちゃってさ」
おそらく4人の中で一番酒の強い夏向 はめずらしく酔いつぶれて、
午後とはいえ、明日も学校のある夏向 を
実はさりげなく酒を飲まなかった蓮水が車で送ってくれることになった。
ここから歩いて帰れる距離に住んでる俺は歩きで帰れるし、
椿はもう少し付き合ってくれというのでひとまず、
二人して蓮水の帰りを待つことにして、
いまは椿と二人で飲んでいる。
「夏向 ちゃん、たけちゃんと話したかったのかも」
「進路か?まぁ悩むかもなぁ~」
自分は高校の時に花屋になると決めていたからほとんど悩まなかったけれど、
実際、世間は悩む人間の方が多いのではないだろうか。
「夏向 ちゃんとそういう話ししないの?」
「ん~、、あいつからはなんも言われねーからな」
大学はエスカレーター式だったおかげで、
俺も・・・きっとアイツも・・・とくになにも悩んだりしなかった。
きっと見つかるなんて安易な言葉を伝えては見たものの、
きっとこの先の夏向 のことを、
俺にだってなにも想像は出来ていない。
「さっきの。夏向 ちゃんの。本気っぽかったね」
「え?」
「ももちゃんと花屋さん」
「ああ、、、あれ」
ーーたとえばももちゃんの花屋手伝うのは?ーー
「ホントは嬉しかったでしょ?」
椿が笑う。
そして・・・
「、、、そりゃあまぁ」
嬉しくないわけじゃない。
頭ん中にはさっきの上目遣いの夏向 が出てきた。
きっと、一緒にやれたら楽しいだろう。
・・・けれど。
「一緒にやったらいいじゃん」
「バカ言うなよ」
「バカかな」
「、、、バカだろ」
夏向 のことを想う。
それはもうずっと一緒に育ってきたアイツのこと。
だからアイツの未来の、可能性の邪魔だけはしたくはないのだ。
ふぅっと息を吐く。
アイツの未来はアイツにしか担えない。
だから・・・
「それより、なに?」
「ん?」
「なんか話しあんだろ?」
話題を変えた。
椿の方からめずらしく店に来て、
おまけにめずらしくこんな夜まで付き合って飲むなんて。
「店に来て外で飯なんて、それしかねーだろ」
すると椿はふふっと笑った。
「なに?良い話?」
「どーかな」
俺と同学年とはいえ、
3歳からモデルをしてきたコイツはどこか俺よりずっとオトナだ。
そして、俺が一番苦しかった時にそばに居てくれた。
・・・蓮水も。
いわば恩人みたいな存在が、彼ら二人と言っていい気がする。
「まぁ、俺に出来ることならなんでも言っちゃって。
、、、世話になってるし」
「ありがと」
椿から頼み事なんてめずらしいし、
コイツの力になれるならなんだってしてやりたい。
なにより、俺が椿の力になれることがあるならそれは、
自分にとってはとても光栄なことなんじゃないかと思えた。
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