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第16話 夏向

モデルのバイトが終わってからダッシュで向かえば、 もうすでに閉店時間を過ぎてしまったももちゃんのお店は それでもまだ明かりが点いている。 そうして一日働いていたっていう疲れなんて全く見せずに、 ももちゃんはいつものエプロン姿でいつもの笑顔でオレを迎えてくれた。 走ってきたオレにペットボトルを手渡すと、 ももちゃんはきっと無意識に、すぐそばにある花を見つめた。 その視線があまりに優しくて、 ・・・いいな・・オレも花になりたい・・・ などと思わず思った自分にびっくりして頭をぶんぶん振った。 「え?なんだよ?」 ももちゃんが驚いて聞いてきた。 「っなんでもない!」 慌てて答えれば ももちゃんはまるで花たちが追いかける太陽みたいに笑った。 「お前なんかねーの?」 「なに?」 「ここに来る以外の予定。お前ホントに毎日来るからさ」 笑いながら・・・でもちょっと呆れたように。 ももちゃんがそう言って、オレは言葉に詰まる。 誘ってくれる友達がいないわけじゃない。 でも・・・オレはいつだってココに・・・というか、 ももちゃんに会いたいのだ。 ももちゃんのそばにいたい。 少なくともいままで生きてきてずっと。 オレの中の優先順位のトップにいるのは「ももちゃん」という存在なのだから。 「・・・迷惑?」 「ばーか。そういうんじゃねーよ」 ももちゃんは優しい。 笑ってそう言ってはくれていても、 本当は毎日仕事終わりに現れるオレの相手をすることは、 もしかしたら大変なことなのかもしれないってことくらいは考えたことはある。 ただそれでも・・・オレはどうしたってココに来てしまう。 きっとオレは ももちゃんがもう来るなというまでは来続けてしまうんだろうと思う。 いつだって笑って出迎えてくれるももちゃんに 本当はずっと甘えてきていることをわかっていて、 オレはそれをやめられない。 「もうちょいで終わるから待ってろ」 「・・・ん」 オレはうなずいていつもの席に座った。 ももちゃんはオレがお店の手伝いをすることを嫌う。 前に片づけを一緒にやろうとしたりレジを打とうとしたら 【お前はここの店員じゃねぇ】 あの鋭い目で制された。 ここは・・・ももちゃんのお店で・・・ どれだけ毎日ここに通ったところで オレのいる場所はないんだってことだと思う。 無意識に視線が仕事をするももちゃんを追いかける。 なんだか・・・ももちゃんはどんどん遠くに行ってしまって・・・ なんとか追いつこうとがんばろうと思うのだけど・・・ たどり着けない。 この先の自分が不安でしかない。 ・・・最近のオレってこんなんばっかだな・・・ 暗くなってる自分に気づいて、 かといって、暗くなったところでなにも解決しないことにも気づいてるオレは、 こんなんじゃだめだってまた、ぶんぶんと頭を振った。 ーーー・・・・・ 「どこ行く?」 片づけながらももちゃんが話しかけてくる。 この質問は『どこに食べに行く?』ってことだ。 ほとんどいつも、夜ご飯は二人で外で食べるのだ。 こっちを向いてない、エプロンを外してるももちゃんを見つめて・・・ 「・・・ももちゃん家いきたい」 オレの知らないうちに、言葉は勝手に出ていた。

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