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第17話 夏向
「え?」
「コンビニでなんか買ってももちゃん家で食べよ?」
大したことじゃないと思う。
ももちゃん家で一緒に食べるなんてこと、
いままでにだっていくらでもあった。
ただいつだってヨコシマな想いがチラつく自分は、
そのセリフがなかなか言えないのだ。
ももちゃんと二人きりになりたい。
そう思う。
もうずっと、そんなことばかりを想い続けている・・・
「、、、俺んち散らかってるよ」
目線を外してももちゃんが言った。
ももちゃんの部屋が散らかってるのはきっと本当だろう。
なんでもできるももちゃんは昔から、
掃除だけはあまり得意ではなかったから。
そして、その言葉にちょっとだけホッとして
同じくらいちょっとだ落ち込む。
その返事は
いまのももちゃんには部屋を片づけてくれるような人が
まだいないってことが含まれてるのだと思ったし、
二人きりになりたかった自分の願いが叶わないってことだとわかったからだ。
「オレが片づけてやるよ」
それでもそんな台詞を言ってみた。
「いーよそんなの」
相変わらずももちゃんとは視線が合わない。
見えないけれど感じる空気感で、
これ以上は誘えないなって感じてもう黙るしかなくなる。
よく考えたら
オレはもう随分ももちゃんの家に行ってない。
いったいいつからだろうか。
最後にももちゃん家に行った日のことを思い出そうとすると、
それは去年の春ごろだったことを思い出した。
・・・一年も・・・
オレはももちゃんの部屋には行ってないのだ。
去年の夏の初めに花屋になると聞いてから、
オレはももちゃんの部屋には行っていないだけでなく、
ももちゃんもオレの部屋には来ていない。
忙しいことはわかってる。
独りでお店をやるってことがどれくらい大変なのか、
きっとオレには予想すら出来ない。
それでも・・・
花屋になるって言いだしてからのももちゃんとの距離感。
思い返すとなんだかすごく離れてしまったような気がする。
去年の夏からのももちゃんをあまりにも知らないのだ。
そばにいれなかったから。
なんだかあっという間に知らない人になってしまったような、
そんなさみしさがこみあげてくる。
・・・もっと・・・そばにいたいのに・・・
「じゃオレんちは?」
ここから少し遠い自分のうちに誘うのは少しためらうけど、
諦められなくてそんなことを言う。
明らかにももちゃんは乗り気ではないとわかっているくせに。
自分の子供っぽさに気づけない。
そしてきっと、気づいていたとしたって言ってしまっていただろう。
今夜のオレは
ももちゃんを独り占めしたい気持ちを抑えられなかったのだ。
「、、、ん~、、、」
手を洗うももちゃんはやっぱりこっちを見ないで答えにくそうにして、
そうして・・・
「や、、、外で食おう」
と。
そのままこちらを見ずに言った。
・・・なんで?
どうして?
・・・なんてこと。
オレは聞きたかったけど聞くことは出来なかった。
だって逆に「なんで家がいいわけ?」なんてことを聞かれたら、
きっとオレは上手く答えられない。
二人きりでいたいのはオレだけなのだから・・・
勝手にため息が出る。
二人きりではなかったとしたって
せっかくももちゃんといられるというのに。
最近のオレってば欲張りになってしまって
さらにはため息ばっかついているのだ。
・・・だめだこんなんじゃ・・・って思う。
そうしてまたぶんぶんと独り、頭を振った。
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