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第18話 夏向

「あれ、珍しいな」 結局、ももちゃん家でもオレの家でもなくて 今夜はよく来るファミレスに入った。 そうして席に案内されてるその最中、 ももちゃんが誰かをみてそう言って、 思わず、今日も誰かが邪魔をする・・なんて思いながら ももちゃんの声の先にいる人物をチラリとすれば 「あれ、カズ」 「よぉ」 そこには椿さんと並ぶ、 外ではあまり会えないレアキャラのカズがいた。 「ホント、こんな時間に外食なんて珍し」 オレも思わずそう言った。 「まぁたまにはね」 するとテーブルにはハンバーグがやってきて、 ももちゃんが俺もハンバーグにしようかなとつぶやく。 「独り?」 ももちゃんが訪ねれば 「基本的にひとり」 湯気の立つハンバーグにナイフをいれながらカズは答える。 同い年のカズは学校は違っていたけれど、 小学生の時から中学までずっと一緒のクラブで野球をやっていた仲だ。 カズは昔からどっか大人びていて、 なんというか自分とは違ったカタチで世界を見てる。 頭の回転の良さはときおりどこか皮肉めいていて、 けれどもそれは本当は寂しがり屋な気性の裏返しだってことを オレはよくわかってるつもりだ。 基本的に引きこもりで ほとんどの場合、自分から誰かを誘って外に出たり 誰かに会ったりするようなタイプではない。 そういう、 オレとはあまりに違うその価値観のギャップはなぜか居心地がよくて、 中学校を卒業するまでやっていた、クラブがある日は遅くまで一緒に遊んだ仲で、その友人としての関係はいまも続いている。 「明日、朝じゃなくていいんだよね?」 ハンバーグを切りながらカズがももちゃんにそう言って、 「ああ。明日は昼で」 ももちゃんは答えながらカズの隣の席に座る。 ・・・なんで当たり前みたいにそこに座るのももちゃん・・・ なんて思いながらも、仕方なくオレもカズの向かい側の席に座った。 ーーー・・・・・ カズの実家は花の卸しをやっている。 そして、老舗と呼ばれるその家業を高校卒業と同時に継いだ。 もともと継ぎたいと思っていたらしい。 ももちゃんのときと同様、そんなことは全く知らなかった。 もともと羚央(れお)くんのレストランの花たちをカズが卸していて、 ももちゃんは自分の店にも花を下ろしてほしいと頼んだことを知っている。 とはいえもちろん・・・それもずいぶん後になってから知ったのだけど。 おまけに 野球をしていたころは週一でオレの方がカズと会っていたけれど、 いまではほとんど毎日、ももちゃんとカズの方が会っているのだった。 「明日、お店午後から開けるの?」 いつまでも落ち込んでいたところでなにも始まらない。 さっきのももちゃんとカズの会話に口を出した。 「ん?まぁな」 「なんで?」 それはとてもシンプルで、たいして大きな意味もなく サラリと出た質問だった。 「ん~、、まぁたまにはいいかなって」 けれどもももちゃんはその理由を教えてはくれなくて、 その現実にまた落ち込んでしまう。 するとカズがオレを見て まるでわざと、ククっと鼻さきで笑った。 「なんだよ」 「別に」 どこか冷たく言いながら、カズは下から見上げるようにしてこちらを見る。 頭のいい・・・そして、驚くほど勘の鋭いカズのその視線は、 いつだってオレをドキリとさせた。 それは昔からそうだった。 その真っすぐな視線にいつだって降参して、 ほとんどの場合カズ相手には隠し事をしてこれなかった。 もともと嘘をつくのが下手ではある。 けれどもカズの小さく、透明度の高いその瞳には、 いつだってなんだかすべてを見透かされてしまっているような、 そんな気分になる。 ・・・もしかしたら・・・ そうして突然ぶわっと思ったこと。 もしかしたらももちゃんへの自分の気持ちを・・・ カズにはバレてしまっているかもしれないってことを。

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