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第19話 夏向
勘の鋭い、
いつだってどこか容赦ない視線と台詞で
こちらをドキリとさせるそんなカズと仲が良いのは、
シンプルに「素直な自分を良しとしてくれるから」だった。
だってどこか空回りしがちなオレのすべてを、
カズはわかりやすく上から目線で笑いながらも
「藤野はそのまま、変わんないでね」なんて言うのだ。
意地悪なくせにどこかさみしがり屋で優しいカズは、
たぶんオレを認めて、受け止めてくれていることを
もうずっと昔から感じている。
そんなカズとオレとももちゃんは
幸いと言ってはおかしいけれど、3人で会うってことがほとんどなかった。
だから
自分の気持ちがカズにバレているなんて考えたことがなかったけれど、
いま目の前のカズのその視線はどこか
もうずいぶん前から「すべてわかってる」と言われているような気分になる。
・・・今日はダメな日だ・・・
と。心ん中で独りつぶやく。
モノゴトを深く考えることが苦手なはずなのに、
今日はやたらと頭をグルグルと使って
余計な事ばかりを考えている。
もうため息しか出そうもない。
せっかく、ももちゃんがそばにいるっていうのに・・・
なんだか帰りたい気分だ。
けれど自分は帰ったりしないことを知っている。
確かに帰りたい気分でも結局は、
ももちゃんのそばにいることの方が大事なのだ。
ももちゃんのそばにいられること。
いつだって、それが大事な事だったし、
きっとこれからも・・・
「夏向 はなに食う?」
気づけばももちゃんがメニューを手渡してくれている。
「・・っ」
慌ててそれを受け取ってメニューを開いた。
ーーー・・・
「はぁ・・・」
家に着くなりため息が出た。
ソファの上にまるで全身を放るようにして座ると、
そのまま横向きに倒れた。
こういう自分は好きじゃない。
出口のないことで悩むぐらいなら
とにかく目の前のことをしっかりやること。
いまやれることをちゃんとやること。
それはもうだいぶ昔にももちゃんに教わった。
口で言われたわけじゃない。
それはずっとももちゃんを追いかけていて、
自然と教わったことだった。
だから
ももちゃんといるときは笑顔でいたい。
そう思ってる。
オレが出来ることなんてそれくらいだから。
でも、
どうしたってももちゃんが学校を卒業してしまったそのあとは、
自然とため息ばかりが出てしまう。
わかっていても・・・上手く笑えない。
「・・・ももちゃん・・・」
ポツリと思わずつぶやくと、ソファに顔を埋めた。
・・・自分の。
ももちゃんへの想いが普通ではないこと。
いい加減知っている。
男のオレが男のももちゃんへ抱くこの想いがおかしいということに・・・
オレはももちゃんが中学を卒業するその日に気づいた。
あの日のことはきっとずっと・・・
オレは忘れられないんだろう。
知らずに抱えていた、大きくなっていた
自分ですらも見たことのないその「想い」に、
しっかりと名前が付けられてしまったその日のこと。
正直、辛かった。
男の自分は・・・ももちゃんをそういう意味で好きなのだという事実は
とても苦しかったし、どうしたらいいかわからなくなって怖かった。
そしてその一年後、自分が中学を卒業するときに、
オレはそのももちゃんへの大きすぎる想いを一生抱えて生きていこうと決めた。
誰にも言わない。
けれど、ずっとももちゃんを好きな想いを抱えて
オレは生きていくと決めたのだ。
なぜってその一年の間に、
その見えない想いはどうしたってなくならないと痛感したから。
ももちゃんを好きだって想いは、いつか消えるなんて、ない。
そんな未来は来ない。
ただただ大きくなる一方なのだ。
そうして、
あのとき感じたその通りに、
たったいまも。
その見えない想いはどんどんと大きくなって、
それは自分の呼吸さえも困難なほどになってしまっている・・・
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