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第20話 夏向

ソファの上にだらしなく寝転がりながら財布を取り出すと、 中からしおりを抜きだした。 それは いまではもう色が変わってしまった元々は白かった花と、 四つ葉のクローバーがひとつ、一緒にパウチ加工されたもの。 それはずいぶんと昔に、自分でラミネート加工をしたものだった。 【シロツメクサっていうんだぜ】 ももちゃんが教えてくれた。 それはもうずっとずっと昔に。 ももちゃんはきっと忘れちゃっているだろう、 この花の名前を教えてくれたあの日のこと。 この日にあった出来事も。 オレはずっと忘れない。 だって嬉しかったから。 「はぁ・・・」 女々しい自分は嫌いだ。 でも、涙はときおり 自分の意思とは関係なしに勝手に溢れてしまうことがある。 泣いてもどうしようもないとわかっていても。 ここ最近はもうももちゃんを想うと オレの涙腺はすぐに壊れてしまう。 ももちゃんへの想いを抱えて独り、生きていくと決めたけど・・・ 苦しい。 どうせ形にならない想いなら そんなものはただの重荷でしかないと思う。 自分ですら見たことのない、 カタチすらないその「想い」はあまりにも重すぎて、 出来ることなら消えてしまって欲しいとも思う。 でも・・・なくなってくれない。 消えない。 募るばかりだ。 ・・・今日はやっぱりダメな日だ・・・ 浮上できそうもない。 自然と瞼を閉じると全身でももちゃんを想う。 そしてそのまま独り・・素直に泣いた。 ーーー・・ 「おはよーございまーす」 「あ、夏向(かなた)ちゃんおはよ」 今日は朝からバイト。 授業はない。 結局きのうはあのまま独りで泣いて、 泣き疲れてそのままソファの上、風呂も入らず寝てしまった。 スタッフさんたちとあいさつを交わしながら、 なんとなく顔を下に向ける。 朝、シャワーを浴びて鏡を見ると、 目の周りがうっすら赤みを帯びて腫れていた。 慌てて蒸しタオルであっためたけど、腫れがなかなか引かないのだ。 もっといえば、顔全体がちょっとむくんでる。 「夏向(かなた)ちゃんおはよ」 「椿さん、おはようございます」 今日は椿さんと一緒の撮影だ。 メイクルームにはもうすでにメイクを終えて、 衣装を着ている椿さんがいた。 「あれ、夏向(かなた)ちゃん目ぇ腫れてない?」 顔を覗き込むようにして言われて、思わずドキリとする。 「え・・・っぁっと~・・あ、玉ねぎ切って・・・昨日・・夜に・・・」 瞼を手のひらで覆うようにしながらあからさまに視線をそらしてしまって、 さらに気まずい気持ちになる。 「え?それでなの?」 オレのウソに気づいているのかいないのか・・・ 椿さんは優しくふふっと笑って視線を細めた。 あまり嘘が上手くない自分をわかってるつもりだ。 慌てて椿さんから離れると、そのまま先に衣装合わせに入った。

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